第7話 手強い敵は予想外のアイテムで。

 朝早く起きたアカリは、さっと朝食を食べ終わり、二階へと上がる。

 まだ寝ている栞莉を起こさないように、そっとゲーム部屋へと入った。


 いつもと同じようにゲームを起動し、少しの間視界が真っ暗になる。

 そして気づくと、そこはいつもの噴水の前。


 アカリが地図を開くと、メインストリート左側の一角にある、建物が光っているのを見つけた。


 鼻歌混じりにそこに行くと、見覚えのあるショーウィンドウがあった。


 「あ、ここって可愛い服を売ってるところだ!」


 そう言って「!」の出たドアに手をかけるが、ドアは開かない。

 すると、アカリは背後から声をかけられた。


 「今日は定休日だぞ?」

 振り返ると、丸々とした姿のおじさんがいた。


 「あのー、えーと……息子さんが」


 アカリは息子の名前を聞かなかったため、しどろもどろにそう言うと、


 「ああ、あいつか」


 と、話が通じた。


 「あいつは「a0a0a0」銀の巣へ行くって言ってたぞ。

 一人じゃ危険だって言ったんだが、母ちゃんを心配にさせたままじゃいけねえってんで聞きもしなかった。

 姉ちゃん、どうか助けてやってくれ」


 それを聞けると、アカリはワープオブジェクトまで移動する。


 「よーし! これで勝ったら可愛い服を買っちゃうんだからね!」




 「a0a0a0」――銀の巣――


 そこは、通路などない拓けた平地だった。

 ドラゴニュートと闘った部屋と同じほどのフィールドは、岩に囲まれている。


 時間が早いからか、そういうフィールドだからか、プレイヤーの姿はない。


 「あっ!」

 フィールドの真ん中には、一人の男が倒れていた。

 そこにアカリは走っていき、話しかける。


 「大丈夫ですか!」

 「ダメだ、あいつは一人で勝てる相手じゃなかった……」


 そう言う男は、意識はあるが立てないようだった。

 アカリは肩を貸して立とうとした時。

 光る太陽の中心から、だんだんと大きくなる黒い点。

 それは、いつしかアカリのいる場所を影で覆い尽くした。


 「うわー大きいー」

 そこにいたのは、翼を広げる鳥だった。

 翼の端から端までの長さは三メートルほどで、全身が銀色に光輝いている。


 【メタルカイト】

 初心者はここで初めて、パーティを組むことになる。

 一人で勝つのは厳しいのは、その性能ゆえだ。


 「ピュールルルー」

 という鳴き声を発しながら、クチバシで攻撃するメタルカイトを、アカリは完璧に避ける。


 しかし、躱されたメタルカイトはすぐに迂回して返ってくる。


 「はやっ!」


 メタルカイトに冒険家が苦戦する理由その一。

 それは、そのスピードと攻撃のクールタイムの短さだ。


 二度目の攻撃をギリギリのところで躱し、三度目は大きく躱すことで体勢を立て直す。


 「よーし! えい!」


 絶え間なく攻撃をしてくるメタルカイトだったが、アカリは段々と対応できてきた。

 そして、杖で頭を叩いたのだが……「カンっ」と弾かれてしまった。


 メタルカイトに冒険家が苦戦する理由その二。

 メタルカイトが持つ物理耐性だ。STRが40以上ない剣士などは、やむなく魔導師とパーティを組む必要性がある。

 初心者でSTR40超えなどいるはずもないので、やはりパーティを組むのだ。


 しかし、アカリのSTR値は40を優に超える。それなのにダメージが入らないのは全身を覆う金属部分のせいだ。

 表面は、内に比べてさらに硬度が高い。

 まずは表面の金属を火属性攻撃で取り払わなければならない。


 「【火の粉】!」


 アカリは物理攻撃を諦め、魔法スキルを発動するが、手の平から出る黒い火の粉をメタルカイトは躱す。


 メタルカイトに冒険家が苦戦する理由その三。

 魔導師の攻撃が当たらない。当てるためにはメタルカイトの動きを止める必要がある。

 メタルカイトの攻撃を止めるには、今のところ、盾職の者が身体を張るというのが主流だ。


 これらの理由から、パーティを組まねばならないのだ。


 アカリは苦戦をしていた。ポテンシャルで言えばドラゴニュートの方がメタルカイトより上だ。

 メタルカイトは動きが単調であり、HPもダークリザードマンの方が断然高い。


 しかし、ダメージを与えることができないため苦戦している。


 「もう! キリがないよぉー!」


 そう言って、匙を投げて【死者の王】に頼ろうとするアカリだが、良いことを思いついた。

 そしてアイテム欄を開く。


 「あったあった!」


 そういうと取り出したのは魚だ。実はこの魚、街の店で売っていて、レストランで調理をしてもらえるアイテムだ。

 アカリは、街で食べたお菓子などに魅力を感じ、様々な食材を買い漁っていたのだ。


 「ほらー餌だよー!」

 取り出した魚を、アカリは放り投げる。


 ……ぺちゃ。


 その瞬間、メタルカイトの目が変わった。

 その目は好物を目前にして、自我を忘れた動物の目だ。


 「そう、お魚は美味しいんだね?」


 ニコニコと笑うアカリは、右手を前に差し出している。

 そんなアカリに慈悲があるはずもなく……


 「【火の粉】」


 ものの見事に金属の表面部分にヒビが入り、素肌を露わにしたメタルカイト。


 そうなれば話が早い。素肌も充分硬いが、アカリには関係ない。

 怒ったメタルカイトは、再び攻撃を始めるが、カウンターで金属が割れた部分を狙って叩くアカリ。


 「これで終わり!」

 杖を横に振り切ったアカリの背後で光となって消えるメタルカイト。


 【スキルを獲得しました】

 【銀色の風】

 効果:相手に無属性の【中】ダメージを与える。状態異常:切り傷を確率で付与(確率はLUKに依存)。範囲攻撃。

 MP:10

 取得条件:メタルカイトの討伐。


 スキルを確認した後、メタルカイトがいた場所を見ると光るものがあった。


 【銀の指輪】

 効果:AGIが15%上昇。

 取得条件:メタルカイトを一人で倒した際の記念装備。


 「へへへ、やったー! 完全勝利!」

 ふふっと笑うアカリはとても満足したようだ。

 アカリは、嬉々として拾った指輪を右手の人差し指に装備した。


 「あ……」


 そして、慌てふためくアカリは辺りを見回して、男の人の姿を確認すると安堵した。


 「戦いに巻き込まれちゃったかと思った!」


 アカリの心配は杞憂に終わり、街へ帰るのだった。

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