第一章 1節
第1話
朱莉は、今年で中学三年生になる
「一人でゲームくらい買いに来なよー。それでも高校生?」
「だ、だってゲームなんて初めて買うんだもん!」
朱莉はクラスで流行り出したゲームに誘われたが、一人で買いに来るのは恥ずかしかったのだ。
そのため、ゲーム好きな栞莉を連れて来ていた。
しかし、栞莉にはある事情があるためゲームを封印している最中だと言う。
「けどさ、仮にも私は受験生だよ?」
そう、栞莉には受験がもうすぐそこまで迫っているのだ。
「だからー、後からジュース買ってあげるって!」
そんな妹をジュースで釣る朱莉も朱莉だか、釣られる栞莉も栞莉である。
「はぁ……あ! あったよ?」
「え、ほんと!?」
棚に置かれていたのは、「アグルベール・オンライン」というゲームだった。
表紙には、剣を持つ勇者と杖を持つ女性の魔導師が写っている。
クラスでは、名前が長いからと言うことで「アグベ」と略されていた。
「なんか、値段が高いのと安いのがあるよ?」
朱莉が、右のパッケージと左のパッケージを見比べてから言うと、栞莉も同じようにした後で納得したように声を上げた。
「あー、中古と新品の差だよ」
「何か違うの?」
「中古の方は、人のデータが残ってるの。このゲーム、データの初期化できないらしいからね」
ほらここ、と言って指が差された場所には『データ削除不可』と書かれていた。
昨今のゲームは売り上げを伸ばすため、中古のデータを初期化して、新しく始めることができないらしい。
「特にこのゲームは、スキルポイントの振り分けとか間違えたら、手に入らないスキルが出て来るからね」
「そうなんだ! よく分からないけど分かった!」
そして栞莉は新品を手に取り、もう片方の手を朱莉に向ける。
それを見た朱莉は、苦笑いをした後に財布の中を栞莉に見せた。
「えへへーこんなに高いと思ってなくて、ちょっとお金足りないかも」
「何やってるの、バカお姉ちゃん!」
結局お金は足りず、仕方がないということで栞莉のお金を足して買って貰った。
「ハードウェアは私の使っていいからね」
「ありがとう、しおりぃー」
お礼と言ってはなんだが、ほっぺをスリスリする朱莉であった。
すると栞莉は、満更でもなさそうに頬を赤くしていたが、直ぐに手で顔を押さえつけた。
「よし! 初めてのゲームだ!」
朱莉は、妹のゲーム機にソフトを入れて、大きなヘルメットのような機械を頭につけた。
そして、これまた大きな椅子のような機械に座ってから、電源を付けた。
この機械をセットする事で、運営が作った世界に転移できるそうだ。
これからするゲームは、AWTMMORPG――アナザー・ワールド・テレポーテーション・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム――という異世界転移型のオンラインゲームだ。
電源を付けたゲームからは「ブーン」という低い音が鳴り、次の瞬間には音が聞こえなくなった。
【性別を記入してください】
という欄が目の前に現れたため、女と記入した。
【名前を記入してください】
「アカリ」と記入し終わった朱莉は未だに何も映らない画面を不審に思いながら、辺りを見回していると、次の瞬間には目の前には大きな噴水があった。
――始まりの都「ベルディ」――
「うわー、綺麗ー! ゲームって凄い!」
初めてのゲームで興奮をしていたが、少ししてから動き出した。
まず朱莉が見たのはメニュー欄だ。何をすれば良いか分からないため、説明書にあったメニュー欄を見た。
【ステータス】
アカリ Lv.1
HP:20/20
MP:20/20
STR:10 VIT:10
DEX:10 AGI:10
INT:10 LUK:777
【装備】
右手:木の棒
左手:木の盾
頭:冒険家の帽子 胴:冒険家の服
腕:冒険家の手袋 腰:冒険家のスカート
足:冒険家の靴
装飾:なし
スキル:なし
表示されたステータスを見て、STRやVITなどはよく分からないため後から調べよう、と決めたアカリの目に留まったのは、LUKだ。
「なんか一つだけ数値がすごいなぁ。しかもゾロ目ー!」
と、ボヤくがそんなものだと割り切った。
実はLUK――つまり運は、ソフトを選んだ段階で決まっている。
後々上げることはできるが、初期はリアルラックだった。これも運営が売り上げを伸ばすための罠である。
以前から、ゲームなどではガチャが流行っていて、最近ではよく用いられる手法なのだという。
そんなことを知りもしないアカリは、遠くの方から大歓声が聞こえたため、その方向へと動き出した。
するとそこにあったのは、大きな闘技場のような建物だった。
無料で入れたため、その中へと入っていくと、そこには大きなモニターが人を映し出していた。
そこには見覚えのある人物が三人映し出されている。
「あ! 健斗君と真司君だ! あと、麻耶華ちゃん!」
この三人はパーティを組んで、数体のモンスターと戦っているようだ。
健斗――アークが大盾、真司――バルクが剣士、麻耶華――もちもちが魔導士という、バランスのとれたパーティだ。
「カッコいいー! 上位狙ってるって言ってたけど本当なのかな!?」
健斗、改めアークたちはクラス内で、リリース記念イベントに参加して上位入賞すると豪語していた。
その言葉どおり、イベントに参加してこのモニターに映っている。
アークは襲いかかるトカゲのモンスターの前に立ち塞がり、それをバルクが切り刻む。
しかし、モンスターが一層増え始める。そこで、もちもちが大魔法を放ちモンスターが消し去った。
とてもカッコ良いと感じたアカリは一人ではしゃいでいた。
そこでアカリはピンと来た。
「私も強くなってイベントで上位入賞したい!」
それをきっかけとして、アカリはモンスターの出るフィールドへ向かうのだった。
アカリはワープオブジェクトの前に立っていた。
このゲームでは、フィールドに行くためにはゼロから九の数字または、aからfまでのアルファベットを六文字入力しなければならない。
例として、「012345」や、「fedcba」や、「1a5fe5」などだ。
「なんかよく分からないなあ……テキトーに打っちゃえ!」
しかし、アカリにはよく理解ができなかったため、簡単に「000000」と0を六回打った。
すると「黒の神殿」という場所が表示された。
【転移しますか?】
はい/いいえ
難易度などには目もくれず、アカリは迷わず「はい」を選択してしまう。
すると上の方から視界が途切れていき、次には月明かりが照らすフィールドにいた。
「うう、急に場所が変わったからびっくりしちゃったよ」
アカリは、周辺を見回して自分が探すモンスターがいないか確認する。
「あ、いた!」
そこに居たのは、健斗たちが闘っていたモンスター――リザードマンだった。
(なんか色が違う気がするなあ)
と言うアカリの感想はその通りであり、そこに居たのはリザードマンとは比べ物にならない強さを誇る「ダークリザードマン」だった。
しかし、そんなことを知らないアカリは「よーし、倒すぞー!」と言って、近寄って行く。
そろりそろりと近寄って行き、不意打ちを狙って「えい!」と切りかかった。
いや、装備が木の棒なので殴りかかったと言うのが正解か。
木の棒は、急所である頭にクリティカルヒットをして、頭上に「1」と赤い数値が出た。
が、ただそれだけだった。
「……え?」
次の瞬間、アカリは噴水の前に立っていた。痛みなどは全く感じないため、運営が操作しているのだろう。
「えー、死んじゃった! よし、次!」
そして再びアカリは黒の神殿へと赴き、ダークリザードマンに倒される。
それを何度も繰り返し、ちょうど十回目を迎えた時に遂に……
「躱せた。やったー! 攻撃躱せたよ!」
ダークリザードマンの攻撃を躱すことに成功したのだった。
しかし……
「あっ……」と、気付いた時には噴水の前に立っていた。
残念がるアカリだったが、そこで頭の中に言葉が届く。
【スキルを獲得しました】
【死の宣告】
効果:相手を一定確率で死亡させる。
MP:10
取得条件:敵を一度も倒すことなく十回死ぬこと。
「やったー初めてのスキルだー!」
このゲームが売り上げ重視だが人気なのは、こういう所だった。
何か行動すれば、何かスキルをもらえる。それが面白くてこのゲームにハマるのだ。
アカリは嬉しくて、つい大きな声を上げてしまった。
すると、ぞろぞろと人が集まって来る。
新しいスキルを求めて集まる者たちから、恐怖のあまりアカリはダッシュで逃げた後、
「スキルのことは皆んなに内緒にしよー……」
と、心に誓ったのだった。
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