最強スキルを持つ魔導師は殴打で。〜楽しむことが長続きの秘訣です!〜
キウイ
プロローグ
プロローグ
――鳴り響くのは聞き覚えのあるサイレンの音。誰かが叫ぶ声が聞こえたが、意識は遠のくばかりだった。
目覚めると、そこは何も無い空間。
ただ何かを見つけたのだとしたら、それは形の無い少女の記憶と感情だった。
未だに掛け合わさったことのない二つの物が混じりあった時、再び身体は動き始める――
20XX年
――虹色高校――
「みんな、おはよー!」
「おはよー朱莉、てか寒いから早く閉めて!」
「は、はい!」
クラスメイトは挨拶を返した後に、笑顔で朱莉に言う。
そして朱莉は、ドアを閉めて席に着いた。
それはいつもの日常だが、今日はなんだか教室が盛り上がっている。
それを察した朱莉は、
「なんの話?」
「ん? 最近流行りのゲームの話だよ」
「ゲームか……」
「あぁ、朱莉はそういうのしなさそうだもんね」
顎に手を当てて少し目線を下げた麻耶華は、何かを考えているのだろう。
それから、その手を固定したままに朱莉に目を向けた彼女は、至って平坦な声で言った。
「女子も案外ハマってるんだよ? 良い景色見たりとか、美味しい食べ物食べたりして」
その言葉を聞いた朱莉は、もしかして麻耶華は誘っているのではないだろうかと、勘付いた。
「朱莉もアグベしてんのか?」
話しかけて来たのは、
「俺と麻耶華と
眉を上げて如何にも興味津々な健斗は、二人の返答を待たずに話を進める。
「あんた、勝手に話進めないでよ! 朱莉はアグベしてないんだって」
そんな健斗に麻耶華が叱りつけると、彼はポリポリと頭を搔きながら苦笑した。
「なんだ、そうかそうか! 悪りぃな!」
そう言って健斗は去って行ってしまった。
この瞬間、またまた朱莉は勘付いてしまった。
ここで自分がゲームを買うのを断ったならば、流行の波に乗り遅れること間違いないと。
「私、買うよ! あ、あぎゅ?」
「ぷっ、アグルベール・オンライン! 略してアグベよ!」
朱莉はアグベを買うと決め、メモ帳にメモを書き込んだ。
(帰ったら栞莉に一緒について来てもらうように、賄賂を……)
と、心のメモも忘れずに。
麻耶華と話し終わったと同時に、教室のドアが勢い良く開き、眉まで髪のかかった男子が入ってきた。
幼稚園からの幼馴染である、神木だ。
しかし、朱莉はあんまり話したことがないし、仲がいいわけでもない。
顔がカッコよくて女子に人気らしいが、朱莉は別段そうも思っていなかった。
別に強がっているわけじゃない! ブンブンと朱莉は頭を振って、誰かが聞いた訳でもないのに勝手に否定をした。
神木が入ってきた少し後に、先生が入ってきて授業が始まる。
今日の授業では、先日行ったテストの採点が終わったため、テスト返しをすると宣言されていた。
三番目にテストを返された朱莉は、ガッツポーズをする。
「98点!」
しかし全員のテストを返し終わった後、先生はこう言った。
「今回の最高得点は100点だ」
と。
それが誰なのかは分からないが、負けず嫌いな朱莉は次のテストは頑張ろうと心に決めたのだった。
学校終わりにカフェに寄り道をする。近所の人気のないカフェだが、落ち着いた印象であるそこを朱莉は気に入っていた。
「朱莉はまた二位? いったい一位は誰なんだろうね」
そう言うのは、朱莉がこのカフェによく誘う麻耶華だ。
「次こそは打ち負かしてやる!」
ぐぬぬ、と唸る朱莉を慰める彼女は、もはやいつもの日常のようになってしまっているため、苦笑をしている。
「ほんと、次こそ次こそ言うくせして、凡ミスしちゃうのが朱莉なんだから……」
「いや、つ、次こそは本当に勉強して、凡ミスもしないから!」
「とか言って、ゲームにハマって今以上に勉強しなくなったりしてね?」
麻耶華との会話の最中に、そうだ! と、朱莉はゲームのことを思い出した。
朱莉にとっては初めての試みである。ゲームにハマるかどうかは、アグベで決まると言って良いのかもしれない。
期待が膨らみ、段々とテストの結果などどうでも良くなってしまった。
「そのゲームって他にはどんな機能があるのか、色々教えてよ!」
その後、カフェでは麻耶華の口から、アグベの魅力がたんたんと語られた。
「ま、詳しい内容は説明書見たり、実際にやってからのお楽しみって感じかな!」
麻耶華の口から語られた一番の魅力は、戦闘が楽しい、ということだった。
従来のゲームではあり得ない動きが、スキルや魔法を使うことで出来るようになるという。
麻耶華は語り上手で、口車に乗せられてしまっているのかもしれない。
朱莉はそう思ったが、それでもやってみたいと思った。
家に帰った朱莉は、茶色いブーツがあることを確認した後、二階へと上がる。
ドアを開けると、そこには机に向かう妹の姿があった。
その妹は扉が開いた音に反応して、朱莉の方へと視線を向けている。
「しおりぃー、ゲーム買いに行こおー」
「……どしたの、お姉ちゃん」
「学校で流行ってるんだよ! アグベ!」
栞莉は姉への興味を失ったかの様に、ふーんと言って俯いて言った。
「一人で買いに行けば?」
その返事を聞いて、朱莉の顔は段々と深刻で切羽詰まった顔へと変わって行った。
「えー! そんなこと言わないで、ね? お願いお願いお願ーい! ジュース奢るからー!」
うーん……と唸って、トントントンとシャーペンで机を叩く栞莉は、再び姉へと視線を向けてから言った。
「仕方がないなぁ……」
(かかったな!)
朱莉は妹へと感謝の言葉を言ったあと、制服を着替えて準備を始めた。
こうして二人でゲームを買いにいくことになったのだ。
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