告白ショートカット

まずい、今日も寝坊してしまった。

このままだと、また学校に遅刻してしまう。

今日で連続三日目だ、これ以上遅刻すると反省文を書くはめになる。

慌てて制服に着替え、ネクタイも締めずに家を飛び出した。

走ればギリギリ間に合いそうだ。


日頃の運動不足のせいか、少し走っただけで息が上がってしまう。

学校まで丁度半分辺りの大通りに着いた頃には、春先にも関わらず、滝のような汗を流していた。

息を切らしながら信号待ちをしていると、信号の向こうで、誰かが手を降っているのが見えた。


制服から見るに、同じ高校の女子生徒のようだ。

後ろを確認するも、回りには僕一人しかいない。

どうやらその手は僕に向けているようだ。

しかし、僕には手を降って貰えるほど、親密な女子生徒はいない。

信号を渡りきり、彼女の下へと駆け寄る。

ショートの髪型が良く似合う輪郭と、引き締まった体、恐らく運動部だろう。

リボンの色から一学年上の先輩だということが分かる。


「きみ!このままだと遅刻だよ!」

彼女はレモンスカッシュのような、爽やかな笑顔で分かりきった現状を伝えて来た。

遅刻するというのに、何故彼女はこんなに嬉しそうなのか。

「わかってますよ!っていうかどなたですか」

「大丈夫だ!私についてこい!こっちの道を通るとショートカットになる!」

そう言うと彼女は僕の手を引っ張って駆けだした。

引き締まった


「ちょっと!何が大丈夫何ですか!」

「私は二年バレー部、川島彩夏だ!君は一年帰宅部、安藤君だろう!」

彼女は僕の話など全く聞かず、自分が何者なのかを名乗った。

それより、何故僕の事を知っているのか、先輩なら尚更関わりなど無い。

先輩は僕の腕を掴んだまま、ビルとビルの暗い路地裏を縫うようにして通り抜ける。

その動きには全く迷いが無い、本当に学校へのショートカットなのか。


「ちょっと!ホントに間に合うんですか!?」

時刻は始業の5分前を指している。

しかし、一向に学校にはたどり着ける気がしない。

「……うむ」

先輩は急に立ち止まり、何かを考える素振りをしている。

「ちょっと、先輩?」

「すまない!私は方向音痴だったんだ!今どこにいるのか分からない!」

「……本気で言っているんですか」

何てこった、今まで全く当てずっぽうに進んでいたのか。


「ほら、近道は遠回りっていうだろう?」

「それ、何の言い訳にもなっていないですよ」

それどころか、使いどころも全然違う。

「すまない!お詫びになるかわからないが私と結婚してくれ!」

どうしてそうなる、この先輩は頭がおかしいのか?

「いやいやぶっ飛びすぎでしょ、何のお詫びにもなってませんよ!」

「私は君の事が好きなんだ!君は私の事嫌いなのか…?」

全く話の流れ何てあったもんじゃない、僕は彼女に全然ついていけなかった。


「嫌いも何も先輩の事知らないですし…」

「大丈夫だ!私は君の事をよく知っている!君が入学する前からずっと!」

何だ僕の熱烈なファンか、いやストーカーか?

「…それは、ストーカーっすか…?」

「ち、違う!覚えて無いのか!?君が学校説明会に来た時、パンフレットをばら撒いてしまった私を手伝ってくれただろう?」

…学校説明会、なるほど、入学前とはそういう事か。

しかし、僕は全く覚えていなかった。

「でも、そんなことで?」

「そんな事ではない!私は嬉しかった!そして君に一目惚れしたんだ!好きになってしまったのだ!」

彼女の剣幕に迫ってくる圧力に、圧倒されてしまいそうだ。


「何で普通に声かけてくれなかったんですか」

「すまない、不器用なもので、君と二人きりになるにはこれしか方法が思い付かなかったんだ…」

僕が遅刻魔だというのを知った上で、あそこで張っていたのか、不器用にも程がある。

「でもいきなり結婚とかは無理ですよ…」

「それなら!まずは私と付き合ってくれ!」

これは…いきなり高難度な欲求ぶつけて、徐々にレベルを落としていく技ではないか?

不器用な割に意外と策士だ。

「それなら、ってまずは友達からじゃないんですか?」

「友達なんていやだ!もう我慢できないんだ!」

いや、これは最初から本音みたいだ、もし最初に僕がイエスと答えたら、このまま婚姻届けを出しに行こうとか言ったんじゃないか?


「わ、わかりました」

「じゃあ付き合ってくれるのだな!」

僕は彼女の圧力に負けてしまった。

「まぁ、取り敢えず遅刻の反省文手伝って下さいよ。」

「もちろんだ!」


まぁ、先輩の事を知るのは付き合ってからでも遅くないか…。

そんな事を思いながら、既に先輩の事が好きになっている自分が居た。

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