第46話 勇者パーティ、再結成
紆余曲折あったが、サッポロに到着した。
丸一日が経過し、太陽は既に真上近くまで昇っている。一度小休憩を取ったが、ほぼ不眠不休で攻略を進めたのだった。
俺達は一先ずシンとの合流を最優先とし、先導するリエルに続く。
「先程、シンさんと連絡が取れました。サッポロのギルドで待っているそうです」
この街が現実世界の北海道、札幌をモチーフにしている事は言うまでもない。
雪化粧した街並みの中、リエルはこちらを振り返ると、目を細めながら答えた。吹雪いてきて、目に雪が入る。思わず
そもそも寒冷地ではあるが、難易度“GOD”の寒さはプレイヤーを刺し貫く。冷気耐性が如何せん低い俺は、体をガクガクと震わせながら歩いていた。
反転魔法をかけていない状態だと、せいぜい難易度“HARD”程のプレイヤーレベルである俺は、この寒さに耐えられなかった。何時間か前、反転魔法の効果が解除された時、凍死してしまったのだ。突然悲鳴を上げて凍りつく俺に、リエルもニナも驚いていた。
……一番驚いたのは俺だけど。
それ以降、効果が切れる前に、リエルが反転魔法を逐一俺に掛けるようになったのだが、それでも寒かった。小学生の時、学校の行事でスキー合宿があったのだが、福島県にある磐梯山へとスクールバスで向かい、班ごとに分かれて皆でスキーを楽しんでいた。ところが俺の班を引率していたのは当時まだ若い新人教師で、下山するルートを間違った結果、上級者コースから帰れなくなってしまったのだ。
降りるのは無理だ、と判断した先生の指示でスキーの板を外し始めた所、バランスを崩した俺は滑落してしまう。そのまま雪山を転げ落ち、見事なウェーデルンを披露しながら瀕死の重体となった。
回転する世界のどこからか、俺の名前を呼ぶ学友の声が聞こえたが、三半規管をやられてしまって、何が何だか分からなかった。口の中や、スキーウェアの中にサラサラのパウダースノーが大量に入り込み、体温の低下と共に死を覚悟した……この状況はそんな過去を彷彿とさせる。
「シグレさん、これでどうですか?」
アダルトグッズのように震えていた俺の前に、火が灯った。――魔法の炎である。
顔を上げると、リエルの持っていた赤竜の杖から、温かな光が澱みなく溢れていた。
ありがとう、と礼を述べて俺達は行歩を再開した。
ギルドを発見し、中へと入った。内部には暖炉が設えられており、暖かい。
雪国仕様という事なのだろうか? ゲーム時代には無かったようにも思う。
くべられた薪がパチパチと爆ぜる音を聞きながら、館内を見渡した。すると、こちらを見ている男と目が合う。
上背があり、やや筋肉質の青年だ。逆立てた黒色の髪に、細い目。中国の伝統的な衣装を思わせる青い装束に身を包んでいた。不思議と、初めて逢った気はしない。
「もしかして、シグレさんッスか? とすると、そちらの女性が……リエルさん、ニナさん?」
青年が人懐っこそうな笑みを浮かべながらこちらへやってきた。軽薄そうな口調ではあるが、どこか憎めない。そんな感じの印象を受ける。
「そうです。紹介しましょう。こちらからシグレさん、ニナさん。……私はリエルです。改めまして、よろしくお願いします」
接近した人物に気付くと、リエルが会釈した。そして俺、ニナの順に紹介していく。俺は「よろしく」と一言、そいつと握手して言葉を交わした。
「知ってるとは思いますけど、自分は『シン』ッス。話は粗方聞いてます。でも、一応確認はしておきたいんスけど……」
リエルに促されて、俺達はギルドの端へと移動する。毎度恒例の、“ギルド会議”だ。一角でテーブルを挟んで座り合い、今までの経緯と事件についてを話すこととなった。それから、未知のバッドステータスに陥ってしまったルーシアの事も話しておく。
「そうなんスね……。これ、自分の場合だけかもしれないッスけど、若干の記憶が薄っすらとあるんスよ」
「え、記憶は消されたんじゃないのか?」
シンの言葉に、俺たちは驚きと戸惑いを見せた。俺の疑問にコクリと頷き、シンが語り出す。
シンの異能は<
本体の記憶が消され、大元のデータは削除されたに等しいが、各地に残っていた分身体を元に欠如したデータを一部復元できたらしい。
つまり、分身にデータと痕跡を残させる事で、葬られた後、いち早く自分の記憶の欠落に気付いたのだとか。
発言がやや曖昧で確証が無いのは、全て推測によるものだから、だという。
「記憶はやっぱり消されちゃってるッス。だからほぼ推測ではあるんスけど、神殿で蘇生してから、記憶や認識にズレがある事に気付いたんス。過去の自分が残したデータが残っていて、武器やアイテムも、それからダイアログ――」
「ダイアログ? それって、もしかして……森ステージの最後に『シン』って人からのダイアログがあったんだが」
「あー、設置した記憶は無いッスけど、恐らく過去の自分がやったんでしょうね」
恐らく記憶を消される寸前、分身してあそこに設置したのだろう。自分がもしも敗れた時、万が一再起不能になってしまった時、何があったかを後続に伝えるために。新たな勇者に全てを託す為に。
それならば合点が行く。だが、このシンという男。自らの散り際に、そこまで思い至って算段を張り巡らせるとは……中々のキレ者である。
結果的に俺も、シン自らも、再起できたから良かったのかな。
それで……後は、アイを撃破する戦略に脳みそを絞らなければならない。
俺は、パーティ申請のメッセージをシンに送る。続いてニナやリエルも、シンにパーティの申請を行う。
承認され、メンバーは俺、リエル、ニナ、シン。合わせて四人となった。
シンは槍を使う近接戦闘スタイルのようだな。ニナは異能が万能なので近距離から遠距離まで対応できるとして、リエルは中距離型と言った所か。あまり遠くに行ってしまうと、仲間への支援が出来なくなるし。
<
まぁ、俺が長剣と短銃を使うスタイルなので、少し距離を取ってサポートに回れば良いのかもしれない。云わば遊撃隊みたいな。
「わたしが思うに、ようはぶっ飛ばせばいいのだろう?」
「まぁ、そうッスね。このメンバーならそれも可能な気がしますけど、一回敗れてるんスよね……。熟考した方が良さそうッスよ」
脳筋なのか、ニナが正面突破を提案した。良案が思いつかず痺れを切らしたのかもしれない。その案をシンがやんわりと棄却する。
正攻法では駄目だろう。最低限、裏の裏をかくような……考えるとしたら、リエルには思いつかない作戦を思い付かなければならない。何故なら、リエルが想定できる事はアイにも想定できる作戦だからだ。きっと通用しない筈である。
そこまで思い至って、ふと俺の中に奇策が思い浮かんだ。
「――そんな、ど、どうしてですか?」
俺が要訣を告げる。ギルド内部に、白髪の少女の悲しげな声が響く。
作戦が決定し、最後の戦いが始まろうとしていた。
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