第45話 強き者達
目の前に横たえられたルーシアを一目見て、ニナは表情を曇らせた。
脈拍を確認したり、ルーシアのステータスを閲覧したりしているみたいだが、結局の所は堂々巡りである。
「俺は新種のバッドステータスだと思う。……どうだ?」
「わたしには分からないな。原因は、その、アイとやら?」
ニナの問いに、リエルは無言で頷いた。
現状の再確認をすると――アイによるバッドステータスを受け、回復不能に陥っている。死亡してはいないが、覚めることの無い眠りに陥っている。治療方法は不明。ゲームのプログラムに知悉しているリエルも、勿論俺も分からない。
……こんな所だろう。
ここまで敵愾心を煽られたのは人生で初めてである。不安もあるが、俺の中ではアイとやらへの憎しみが勝っていた。
「胸糞悪いな……。アイとやらをブチのめさなきゃ、俺は気が済まんな」
「ある意味、それしか無いかもしれない」
ニナが同調の意を見せる。
簡単な解決策なら、とっくに俺の中に浮かんでいた。それは、当初の予定通りアイを撃破する事だ。
「……そうですね。それが一番早い、かもしれません」
リエルも賛同する。
アイを倒してしまえば、この馬鹿げたゲームも終わる。そうなれば少なくとも、プレイヤーは元居た世界へ送還されるので現実世界のルーシアは救われるだろう。
ゲーム側の世界がどうなるかは不明だが、リエルというプログラムだけが残れば、アヌビスゲートの正常化、ひいては運営も可能にはなるだろうと俺は踏んでいる。
「とすると、どうするのだ? いつ動くのだ?」
「善は急げです。今すぐに動きます」
ニナが質問し、リエルが答えた。その回答に、ニナは一瞬鼻白んだようだった。
だが、確かに悠長な事は言っていられない。今すぐ動いた方がアイにとって都合が悪い。つまり、こちらにとって有利になる筈だ。
「仕方がありませんが、ルーシアさんは此処に置いていきます。まずはシンさんと合流。その後、全員でアイを倒します」
「そうだな。シンは何処に居るんだ?」
「プレイヤータウン<サッポロ>です。それと――」
――パーティ申請をしましょう、とリエルに指摘された。俺はニナとのパーティ申請を行う事にする。
そこで、何気なくチャット相手の一覧を見て、俺は声を漏らす。
「あれ? 既にチャットに登録されているぞ?」
ニナの名前が、既にチャットリストに登録されてあった。パーティ申請を行って初めて、その相手とチャット機能が使えるようになる。まだパーティの申請が受諾されていないのに、これはどういう事だろうか。
「以前、わたし達は一緒に冒険をしていたのだろう? であれば、その時に申請している筈だから、名前が残っていたのだろう」
成程。ニナの言う通りである。
例えパーティを解除しても、チャットのリストに相手の名前は残る。解除後も、拒否されていなければチャット機能はそのまま使用可能なのだ。但し、文字が灰色になっていて、今は通話が不可能になっているようだ。
また、以前行動を共にしていただけあって、シンの名前もチャットのリストに登録されていた。
……気付かなかった。いや、俺のリストには色んなプレイヤーの名前が羅列されているし、名前や存在も忘れていたのだから仕方ない。
これで現在のパーティメンバーは俺、リエル、ニナの三人。
リエルのステータスは何故かシステムに弾かれて閲覧できないので、ニナのステータスを覘かせてもらう。
ニナ Lv. 500 Demi Human
称号:破壊神
異能:物質崩壊
■HP 7266/7266
■MP 9999/9999
■攻撃力 50000
■防御力 6739
■素早さ 9999
■魔法耐性 7954
……
■炎耐性 7946
■氷耐性 7930
■雷耐性 7901
……
恐ろしく強いな。っていうか、攻撃力が……五万?
桁が一個多くないか。一瞬、俺の目がおかしくなったのかと思ったぞ。きっと
……もしかして、アヌビスゲートのステータス限界値は“50000”なのか? いや、だとしたら何で“9999”で一度上限を迎えるんだ? 一応の上限が“9999”で、システム上、許容されているのは“50000”という事なのだろうか。イレギュラーやバグのようなケースのみ、一つ目の限界を突破する事を承認されているのかもしれない。
分からない事はあるが、この際だ。気にしない事にしておこう。味方であれば心強い。それだけで良いのだ。
俺達一向はシンの居るプレイヤータウン<サッポロ>へと歩を進める。
出発前、宿屋の主人に事情を話したら始めは渋っていたのだが、ありったけのゴールドを渡すと黙諾してくれた。なるべくすぐに戻ると伝えて、その場を後にしたのだった。
海賊船ステージのボスを倒した事で、港に扉が出現している。――次のステージへの入り口である。
この先は洞窟ステージ、鉱山ステージ……と続いており、この二つを抜けるとサッポロに到達する流れとなっている。
道中、やはりゲームの難易度が“GOD”になっているとリエルより知らされた。
最初は各難易度毎に、別々の世界に分離していたらしい。それらは交わる事が無かったのだが、シグレ――即ち俺を潰す為に、アイが各世界の空間を繋げてしまったらしい。結果、“GOD”のモンスターが跋扈する事となった。
その為、本来の俺の強さでは討伐する事が出来ないようなモンスターが、そこかしこに溢れていた。しかし、尋常ではない強さの女性二人に補助されつつ、先へと進んでいく。
俺はと言えば、リエルの反転魔法を利用して驚くべきスピードでレベルアップを果たしていく。それもその筈、レベルは低いときの方が上がりやすい。レベルが上がるにつれて、必要な経験値は増えるものだ。ましてや撃破する相手は遥か格上のモンスター。面白いようにレベルが上がっていった。――三人による無双が始まった瞬間である。
ゴブリン、レッサードラゴン、ボスモンスターである<ヤマタノオロチ>でさえも……気付けば消し炭となっていた。
ちなみに、反転魔法を使用した時の俺のステータスはこんな感じだ。
シグレ Lv.142 Human
称号:???
異能:1/10
■HP 15840/15840
■MP 8710/8710
■攻撃力 16060
■防御力 9980
■素早さ 11440
■魔法耐性 1530
……
■炎耐性 1510
■氷耐性 1490
■雷耐性 1520
……
~装備~
武器◇ レーヴァテイン(長剣)
防具◇ 真打ちの革鎧
アクセサリー①◇ 真打ちの籠手
アクセサリー②◇ ペガサスの翼
“十倍になる”という条件によって、ステータス値は歪な上昇を見せていた。レベルは最上級プレイヤーとしては心許ないが、反転魔法を使った際の戦闘能力は、世界ランカーの首位を軽く凌駕する。まさにチートと言えるものだった。
レベルは五百まで上がるから、もしこのまま順調にレベル上げをした場合、各ステータス値が数万を超えるという化け物が出来上がる。実現したならアヌビスゲートの数年の歴史において、初の快挙というか異例であろう。
また、毒などの“状態異常も効果が十倍になる事”と、十倍しても低めの魔法耐性によって、毒や麻痺、炎や冷気には滅法弱いという、珍妙な仕上がりになっていた。
ちなみに、ニナが持っていたEXPポーションも受け取り、装備も一新している。一級品の武具は手に入らなかったが、レベルに見合った中では上々の装備に新調する事が出来たと思う。
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