第47話 ラストバトルへ
やがて、アイの居る母星まではどうやって行くのかという話になると、リエルが手を挙げて制止した。
<その事ですが――>
リエルからテレパシーが来た。全員へと回路を繋いでいるようで、皆、驚き固まったようにしていた。脳に直接語りかけて来るような感覚を覚える。
<アイによる傍聴を防ぐため、テレパシーで失礼します。当初は私が皆さんを転移魔法によって連れて行くつもりでした。……ですが、この方法だと待ち構えられている可能性もあり、危険です。裏をかいた方が良いでしょう。
一瞬でワープし、対策や準備をされる前にケリをつけるんです。その為には……シンさんの異能で、全員そこに瞬間移動しようかと思います>
アイの居城はサイバーシティで、そこに連れて行くつもりだった、と言う。
……もしかしてサイバーシティが粉微塵になっていたのって、以前戦った時の影響なのか?
いや、そうだろう。これだけの能力者が集まって熾烈な戦いを繰り広げたのだ。無傷で済むわけはない。
……いや、でも<森>を探索していたあの時、難易度は“EASY”だった。アイと戦ったのは“GOD”の世界だよな? 難易度によってそれぞれの世界は隔離されている、みたいな事を言っていた気がするが……。どうなっているんだ?
まぁ、ニナみたいな空間すらも消滅させそうな異能もあるし、シンのような分身する異能もある。とすれば、隔てられていた空間が繋がったか、ヒビが入って交錯したという可能性もあるのかもしれないな。
「自分ッスか……。うーん……」
シンがぽつりと呟いた。頭を捻り、何だか迷っている様子である。
「その場合、全員の手を繋いで目的地まで飛ぶッスけど、一網打尽にされないッスか? 固まって出現した所を叩かれそうな……」
確かに、その可能性はありそうだった。全滅してしまったら、今度こそ終わりである。チャンスは一度だけ、か。
思うに、分散して乗り込んだ方が良いと思う。それも、ごく短時間の内にだ。
最初に誰か、経戦能力の高い人物が単独で乗り込み、戦闘を開始。そいつにアイが手を取られている隙に、次々と乗り込むのだ。
問題は最初に誰を送り込むかだが、シンが良いだろう。ニナは……攻撃力は化け物クラスだが、直線的な攻撃がメインになる。座標を弄る事で、“面”での攻撃も可能になるみたいだが、防御には向いていないと見た。
連発も利かないし、相手からの波状攻撃には弱いのだ。だからクラーケンとの戦闘時、パラソルの上から降ってきたのだろう。もし本当のチートであるならば、落下などして来ずに、一方的にモンスターを殲滅していたに違いない。
その点、シンならば瞬間移動も出来るから、最悪の場合でもこちらにすぐ戻って来れる……と思う。
ところで、リエルの元気が無いようだ。
先程から意見を却下されてばかりで良い所が無いからだと思う。不機嫌では無さそうだが、落胆しているように見える。
そんな彼女の顔を見て、ルーシアを思い出した。大丈夫だろうか。宿屋でまだ寝ているのだろう。
もう少し待っていてくれ。
窓の外を見やると、吹雪は収まっていた。住民も出歩いており、空は灰色が広がっている。その中を、何匹かの鳥が飛んで行った。
鳥か。雪国にも鳥って居るんだな。
……鳥? ……そうだ……ッ、あるぞ! これなら……!
「シン、あれはどうだ? あれなら」
「え? あれッスか? ……ああ~!」
俺が手をぱたぱたと振ってジェスチャーをすると、納得したのかシンは深く頷いていた。
やはり察しが良い。この男は。
理解してもらえたようなので、俺はそのまま説明を続ける。
「固まって乗り込むとやられるから、一人一人行くぞ。まずはシンからだ――」
「えっ! 俺ッスか!?」
「――ああ。続いて、各自で転移を開始する。……シンは現地に着いたらすぐ戦闘になる。頑張ってくれ。それと、テレポートした後、もしヤバイ状態なら帰ってきてくれ。シンが帰って来ない場合、俺達もすぐに乗り込む」
肩を落とすシンだったが、自分が適任だと気付いたようで渋々と承知したのだった。俺はリエルの方に直り、声を掛ける。
「……分かりました。私は言われた通りにするだけです。作戦をご提案できないのが悔しいですが、任せます。これより作戦を開始します!」
「ちゃんと自分のHPゲージを確認しててくださいよ? 自分が帰って来ないって、それ、ただ死んじゃってる可能性もあるッスからね?」
そう言い残すと、シンが消えた。
それから数秒が経過しても、帰って来る様子は無い。当然HPゲージもゼロにはなっていない。――ただ、MPが少しずつ減っているようだった。
リエルの方を見ると、彼女は力強く首を縦に振った。転移魔法の魔法陣が描かれる。先に行ってます、と告げるとリエルの姿も消えたのだった。
俺はニナから回復薬を幾つか貰っておく。ポーションと、<エリクサー>だ。
エリクサーはHPとMPを全回復させる最上級の回復薬である。それを一つだけ貰っておいた。
……それじゃあ、俺達も行きますか。
《どこへ飛びますか?》
流石は一流のプレイヤー。難易度“GOD”を遊びまくっているような連中だ。当然のようにレアアイテムを持っているんだもの。全く、畏れ入る。
――――残った俺とニナは、アイテム<グリフォンの羽根>を空中に放り投げる。
一瞬にして二人の姿が消え、サッポロのギルドに静寂が戻ったのだった。
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