第17話 ご馳走様です

 俺は、仲間になったルーシアのステータス画面を確認してみる。


 ルーシア Lv.55 Elf

 称号:ベテラン

 異能:ラピッドファイア

 ■HP 478/478

 ■MP 588

 ■攻撃力 282

 ■防御力 270

 ■素早さ 350

 ■魔法耐性 280

 ……


 ■炎耐性 256

 ■氷耐性 256

 ■雷耐性 256

 ……


 エルフは高い魔法能力やMPが特徴だ。通常ならば職業<フォース>を選択するのが常套だろう。

 ルーシアの種族はエルフで職業は<ガンナー>、……なぜ選択しなかったのだろう。攻撃力だって他の職業と比べて見劣りするし、長所を活かせてないと思うのだが。


「キャラクタークリエイトの時思ったのよ。エルフだけど、この異能だったらガンナーにしたほうがいいなって」


 聞いてみた所、ルーシアの異能<ラピッドファイア>は、“単発でしか放てない技を連続で使用できるようにする”モノらしい。

 ……成程。それでさっきの戦いで、ショットガンを連射出来ていたのか。納得である。


「でも魔法も連射できるようになるんだろう? だったらフォースでも良かったのでは?」


「それはね。魔法を詠唱したとき、また同じ魔法が使えるようになるまでのインターバルがあるじゃない? あれがちょっと短縮される程度だったのよ。だけどショットガンを使用してみた時、分かったわ。この能力はガンナーで発揮されるものだな、って」


 俺の質問に、ルーシアは残念そうに答えた。

 通常、連続で放てない技を使用すると、もう一度使用できるようになるまでの待機時間が存在する。一定時間経たなければ、同じ技が使えないのだ。通称<リキャストタイム>と呼ばれるそれは、ゲームバランスを維持する為に連続で放てないようになっているのだと……俺は思う。そりゃあ、強力な技がなんの制限も無しに連続で使えちゃったら、面白くないと思う。

 魔法の中には強力な攻撃魔法が多く存在するが、そういったものはリキャストタイムによって、連続で使用できないようになっている。リキャストタイムがゼロになる異能だったのなら、きっとルーシアもフォースを選んでいたに違いない。しかしこの異能<ラピッドファイア>は「単発でしか放てない技を連続で使用できるようにする」だけで、リキャストタイムという制限には効果を及ぼさない、らしい。

 銃器系は“連射できないだけ”であって、リキャストタイムが存在する訳ではない。単発でしか放てないモノには、どうやら銃器も含まれていた、という訳だ。

 それならば、ガンナーを選んだ方が良いだろう。


「成程な……。それで、次のステージに行くにはやっぱドラゴンを倒さなきゃならない訳だが。その前に、あのグリフォンを倒す算段を整えなきゃならない、か……」


「そうね。でも……グリフォンのレベルが分からないけど、もし難易度“GOD”の状態だったら勝ち目は無いんじゃない?」


 パーティを組んだはいいが、一先ずはグリフォンを倒す作戦を考えなければならない……さて、どうしたものか。

 ルーシアの意見は尤もだ。難易度が“GOD”だった場合、中級レベルのルーシアでもグリフォンから一撃でも喰らったら即死するだろう。それくらい強さの次元がかけ離れている相手だ。


 暫時頭を悩ませている二人だったが、名案も思い浮かばず時間だけが流れていった。このままでは堂々巡りだ、と俺がお開きを申し出ると、ルーシアもそれに従ったのだった。金の無い俺は、ルーシアが会計を済ませているのを横目で見て、何だか申し訳なくなって店を先に出た。


「すまない。奢ってもらって」


 夜は既に更けており、人気も疎らな路上。外で待っていると、ルーシアも店から出てきた。俺は彼女に一応の侘びを入れたのだが、当の本人は一顧だにしていない様子で、一言「別に」と返すだけだった。月明かりに照らされた長い金髪を手で払う仕草が、なんだか印象的だった。


「なんだか疲れたわね。今日はお互いに休んで、寝ましょう」


 ルーシアの提案に俺は首肯すると、彼女に別れを告げた。背を向けて反対方向へと歩き出し、今日あった出来事に思いを馳せる。

 ――色々あった。酒場でオッサンに土下座してEXPポーションを手に入れ、ルーシアに銃殺され、金髪エルフとデートしてハンドガンをゲットし、クマを倒し、そしたら野良犬に噛み殺され、グリフォンに殺された……。最後にもう一度金髪エルフと食事デート。

 おいおい、アメリカのアクション映画か何かかよ! 確かに疲れたわ!


「ルーシア!」


 レンガで舗装された道を、数歩進んでから俺は立ち止まった。そして振り返り、距離が開いて小さくなった彼女の後ろ姿へと、声高に呼びかけた。夜の空に声はよく響いた。

 俺の声に気付いて振り返り、キョトンとした表情でこちらを見やるルーシア。


「――宿代、貸してくれないか?」


 俺は真顔で、そう尋ねた。

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