第14話 ムツゴ〇ウの動物王国
順調に攻略しているように思えた。このステージ<森>は、大きく分けて二つのマップから成る。前半は街から直結した、木々が生い茂る森で、たまに広い草原が出現する。後半は緩い下生えが群生する湿地帯となっており、深奥部にはフィールドボス、<ドラゴン>が待っているのだ。
クマを倒した辺りで、前半は終了した事になる。次は湿地帯であり、<野犬>や<ゴリラ>と言ったモンスターがプレイヤーに襲い掛かってくる。
俺は目下、神殿のベッドの上に居た。シンジュクの人間が「アイツ、あそこに住んでるんじゃね?」と噂する程、俺はここで頻繁に目撃されているようだった。
不思議と『目が醒めたら神殿の天井』というシチュエーションにも馴染んできた。すぐに「あっ、死んだのか」と理解できるようになったし、この場所でリスタートする事にも慣れてきた。
……さて、今回は何故俺が死んだのかと言うと、原因は野犬だった。クマを撃破した俺はそのまま湿地帯の攻略を開始したのだが、開始から数分、野犬が猛スピードで走ってきて俺の腕に噛み付いた。そして気が付いたら……このザマである。
マジか~……萎えるわ。あんな野良犬に……ッ。
勿論慢心など無かった。弾丸を撃ち込んだのだが、野犬は倒れず襲ってきた。
野犬は防御力が低いので、通常なら一発当てれば倒せる。テンパーセントの呪いがある俺ならば……レベルが少し上がっているから二~四発って所か。そこは失念していたな。
脅威となるのはその移動速度だろう。噛み付いて攻撃してくるのだが、接近してくるスピードがかなり速い。モタついていたら攻撃を喰らってしまうだろう。その攻撃力は然程強くはないが、テンパーセントのお陰でHPが一桁しか無い俺にとっては悲しいことに一撃必殺だった。
また、ゲームの難易度が“NORMAL”以上になると、群れで襲ってくる事もある。そうすると、ソロプレイをしているプレイヤーは苦戦を強いられるケースも少なくない。
幸い、難易度はEASYのようなので個別に撃破すれば勝てるだろう。
しかし、どうだろう。
ベッドで横になり、思案してみる。――作戦はこうだ。まず接近されるまではハンドガンを出来るだけ打つ。そして相手の間合いに入られたら、剣に装備を切り替えて一撃入れる。通常なら一発で切り伏せられる相手だから……えっと、初心者プレイヤーの攻撃力が8として、今の俺は20。十分の一だと2だ。四発も入れれば倒せる。問題は攻撃を喰らう前に四発も入れられるか、だな……。
――うん、無理だ。となると、先にレベルを上げた方が早いな。
俺はその日、“クマ狩り”を続けた。岩陰に隠れてはクマ目掛けてハンドガンを連射し続けた。その甲斐があってレベルが4になる。
シグレ Lv.4 Human
称号:新人
異能:1/10
■HP 8/76
■MP 4/36
■攻撃力 27
■防御力 20
■素早さ 17
■魔法耐性 5
……
■炎耐性 4
■氷耐性 4
■雷耐性 4
……
レベルが上がった後、湿地帯に行き、もう一度野犬と戦ってみた。接近される前にハンドガンで二発。接近された段階で剣に持ち替えた。飛び掛かってきた所をズバン、と一閃。すると野犬は透明になり、消滅した。
……無事、撃破できたようだ。一体なら何とかなりそう。んで、この先には<ゴリラ>と野犬が出現するんだよな。
ゴリラに関しては、どうって事は無い。このモンスターの特徴は、その攻撃力だろう。遅めのモーションで殴ってくるのだが、喰らってしまうと大ダメージを受ける事になる。職業によっては一撃で死亡する場合もある。
しかし、だ。そもそも俺は一発喰らえばお陀仏なんだよ。攻撃力が高いとか、低いとか。もはや関係ねえ! あのモーションならこの異能でも避けられるだろうし、なんて事は無い。
俺は飄々と歩を進め、遠方を睥睨する。
ゴリラが……あれ? 居ない。えっ、代わりに野犬が四体居るんだけど。これって難易度“EASY”じゃないのか?
ゲームの時とは違う配置になっていた。野犬四体……同時に相手を出来るだろうか。HPが増えたから、恐らく一発は攻撃を凌ぎ切れる。
フィールド内に<岩>などの障害物も無いから、クマを倒したときのような戦法は使えないな……。一旦戻るか?
俺がどうしようか悩んでいると、野犬の更に後方から、ゴリラが歩いてくるのが見えた。ゴリラは野犬の近くで歩みを止めると、座り込むのだった。
群れの野犬も居る。ゴリラも居る。この様相はゲーム時代、難易度“HARD”以上で散見されるパターンだ。野犬の群れに翻弄されていると、ゴリラによる大ダメージを喰らうという。上級者向けの配置だった。
難易度はEASYだとばかり思い込んでいたのだが……ダメだ、一旦戻ろう。作戦を考えなければ――
街への帰還を決意した俺が、後退しようとした時だった。今俺が来た道の遥か遠くから、何かが迫ってくる様が見えた。
俺は目を細めて、愕然とした。それは十数匹の野犬の群れだった。真ん中には一際体格の大きい狼のような個体まで居る始末。こいつは<バトルウルフ>と呼ばれるモンスターで、難易度”VERYHARD”で出現するようになる個体だ。
難易度設定が、もしくはゲームシステムがメチャクチャになっているという事なのか?
動揺する俺を置き去りに、更に状況は変化した。急に雨が降り始め、空が暗くなったのだ。
このグラフィックには見覚えがある、そう思ったのも束の間、天候は荒れ果て、雷雲が渦巻き、稲光と共に轟音が鳴り響いた。そして雷雲の中心からは爬虫類のような脚に巨大な鉤爪、巨大な翼を持った白い怪鳥が現れた。難易度“GOD”で出現するボスモンスター<グリフォン>である。
おいおいおいおい……ッ!! ウソだろオイ!! こんな組み合わせ聞いたことねーぞ!? 勝てる訳ねーだろ!!
俺は大慌てで、前方に突っ走った。後方からは野犬十数匹とバトルウルフがこちらに向かって来るのが見える。上空からはグリフォンが飛来して来る。多分死ぬのだろうが、ゴリラと野犬数匹と戦う方がマシだと思った。だから前方を選んだ。バトルウルフは、今の俺では瞬殺されるのがオチだろう。グリフォンは……着地した時の“衝撃波”だけで死ぬな、うん。グリフォンってさ、着地した瞬間、広範囲にダメージを与える衝撃波を出すんだよ。
今までの報いなのか、それとも前世で既に大罪――将軍暗殺とかかな――をやらかしているのか。俺は今までの行いを悔いながら走った。ハンドガンを野犬に向かって乱射する。先頭に居た一匹が俺に気付き、向かってくる。距離があった為、ハンドガンで三発入れる事が出来て、一匹が消滅していく。その脇からは残り三体が一斉に駆けて来る。ゴリラはと言うと、鷹揚とした動きでこちらへと向かってきていた。
奇声を上げて、鼻水と涙を垂れ流しながら必死に走った。実際はスローモーション気味だったが。
無理だ……既に勝敗は決している。もういい、神殿で復活すりゃあいいんだろ!?
「フフ、お困りのようね!」
半べそをかいていた俺の背後から声が聞こえた。――そこには、ヘソだしに短パン、ウェスタンハットを背中に引っ掛けたエルフ、ルーシアの姿があった。
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