第11話 人の世は縁だぜ
酒場の次はギルドへ来ていた。扉を開けて中を見渡すと、お目当ての相手が居た。
「やぁ、キミ! いや~、この前は悪かったね。ところで、今私は人を探していてね。聡明そうなキミに折り入って相談があるのだが……」
俺が話しかけたのは、ヘソだしに短パンの金髪エルフ女性だ。背中にウェスタンハットを引っ掛け、腰にはガンホルスター。……アレだな、その、今更気付いたが結構美人だな、コイツ。それにけしからん乳をしている……おっとイカン。
昨日の夜、俺がギルドで勝手に寝泊りしようとした時、職員に頼まれたのかは分からないが、このエルフは俺に注意してきた。その時、俺はお偉いさんの振りをしてこいつを追い返してしまったので、その設定は遵守しなければならない。なので、今は“某企業の役職持ち”という体でこいつに話しかけている。
「お断りします」
あ、あれ……。ヤケに嫌われているな。俺、こいつに何かしたか?
「嘘つきとは話したくありません!」
唖然とする俺を無視して、彼女はそう付け加えた。ムスッとした表情で、俺は顔を逸らされてしまう。「プンス」という擬音――果たして音なのかどうかはさておき――が聞こえてきそうな様相である。
……うん、あのね、気持ちは分かる。確かに昨夜、好感度ゲージは下がったと思う。だが、その態度はどうなのだ? 人として最低限の接し方というモノがあるのではないかね? 人間としてのモラルが欠けているのではないかね?! そう思わないかね!? キミィ!!
おっと……取り乱した。今のやり取りで確証を得たが、このエルフはプレイヤーだな。NPCだったらプログラムされていない行動は取れないだろうから。だが――
「そうだな、俺はウソを付いた。キミの事をさっき“聡明そうだ”と言ったが、訂正させて貰おう。キミは愚か者だ」
「なっ――」
「キミもプレイヤーの筈。だったら、素性の分からない相手、つまり本当に何処かのお偉いさんである可能性がある俺に対して、無礼な態度を取るのは避けるべきなんじゃないか? もし現実世界に帰った時、俺との間に何かあったらどうするんだ? そもそも、それが気さくに話しかけてきた人間に対する態度か? 人間はどこでどう繋がって来るか分からない。まだ歳の若い社長かもしれない。有名な企業のご子息かもしれない。そうやって疑って掛かるべきだったんじゃないか?」
こういう時の俺は強い。自分の事は棚に上げて、猛然とエルフを捲くし立てた。途中「なんですって……ッ」と気色ばむ彼女の様子が見て取れたが、意に介さず俺は喋り続けた。ちょっと俺も頭に来たからだ。
後半に差し掛かると、次第に顔を紅潮させて涙目になっていくエルフだったが、お構いなしだ。
フン! そんなもの、俺は歯牙にも掛けないぜ! 教えてやろう、腐れ外道の俺のポリシーを! “人に厳しく、自分に甘く”だッ!!
口の端を吊り上げ、嫌らしい笑みを浮かべながら俺は続ける。
「おっと、もしかしたら話が難しくて理解できなかったかもしれないな! もう一度言うぞ、キミはバッ――」
「う、うるさぁーいッッ!!」
ズガンッ!!
「――ッ!!??」
向けられた銃口からは煙が上がっており、突如、俺の体に力が入らなくなった。思考が追い付かなかったが、即座に引き抜かれた銃身からは弾丸が発射され、見事俺の脳天をブチ抜いたようだ。
鮮血を噴射し、視界がブラックアウトしていく感覚の中「ど真ん中だ、すごいな。腕が良いのだろうなぁ」とか思いつつ、本日六回目。俺は死んだ。
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