第10話 EXPポーション

 シグレ Lv.2 Human

 称号:新人

 異能:1/10

 ■HP 6/58

 ■MP 3/25

 ■攻撃力 14

 ■防御力 10

 ■素早さ 9

 ■魔法耐性 3

 ……


 ■炎耐性 2

 ■氷耐性 2

 ■雷耐性 2

 ……


 ふと思ったが、アレだな。強さが全ッ然足りねえ。これじゃダメだ……このまま無限にスライムを狩ってパワーレベリングするのも吝かではないのだが……これじゃあ魔神アヌビスは勿論の事、最初のフィールド、森のボスである<ドラゴン>ですら倒せねえ。

 正確に言うと、ドラゴンは然程脅威ではないのだが、この先のフィールドに進むと<クマ>や<ゴリラ>といったモンスターが出てくる。ぶっちゃけ、そこで詰む。

 致命的なのが十分の一になる素早さだ。ヒット&アウェイが続けられるなら勝機はあるだろう。だがこの異能のせいで既に趨勢すうせいは決したようなもの……。

 参ったな。何か無かったか……? 何か……


 あっ、イケるかも。


 穏やかな昼下がり、この世界に天候という概念があるのかは分からないが快晴で、初夏の陽気に包まれていた。そんな現在の俺の状況は、真っ昼間の酒場でスキンヘッドのオヤジに土下座している、というものだった。――相手は、以前餞別をくれた優しいおっちゃんだった。


「兄ちゃん、顔を上げてくれ! 俺を巻き込まないでくれ!」


「頼む! この通りだ!」


 俺にはどうしても欲しいアイテムが二つあった。日の浅いプレイヤーには無縁だが、ある程度アヌビスゲートを遊んでいるプレイヤーならば持っているアイテムだ。アイテム倉庫がカラになってしまった俺は当然持ってないのだが、フィールドから酒場へ戻ってオヤジに聞いてみると、案の定「持ってるけど?」だった。それを聞いての、このザマである。

 ……プライド? そんなものは中学校を退学した時に筆箱と一緒に捨ててやったわ!


 俺は懇願して<EXPポーション>を譲ってもらった。これはモンスターとのバトル時、獲得する経験値が二倍になる特殊なアイテムだ。“経験値ポーション”とも呼ばれる。貴重なアイテムではあるのだが、よく出回っているアイテムなので別に一つや二つは惜しくない、という人もそれなりに居る。そんなアイテムだった。

 さて、一つ目の欲しいモノは手に入った。次は――


「ついでと言っちゃなんだけど、入門者用のハンドガンとかも譲って貰えない?」


「俺は持ってねえよ……。職業がモンクだから、装備できねえしな。ガンナーにでも譲ってもらえよ。っていうか兄ちゃん、ガメついなぁ!」


 ――ハンドガンの調達だ。

 アヌビスゲートには剣や槍の他、銃器や魔法の杖など、色々な種類の武器がある。

 ハンドガンとは数多ある銃器の一つで、初心者プレイヤーが装備するようなショボい性能のものである。射程距離はそこそこあるが、威力は最低で、連射も出来ない、初心者用の地味な武器……なのだが、最初のステージである<森>では入手が出来ない。次のステージから入手可能となっている。

 つまり、今の俺には実質入手が不可能であった。……誰かから譲って貰わなければ、ね。


 ここでアヌビスゲートのシステム、<職業>について説明しておこう。職業は<クラス>とも呼ばれる。このゲームではキャラクタークリエイト時に、プレイヤーはクラスを一つ選択する事になる。

 クラスは大まかに三種類に分類され、物理的に戦うタイプ<ファイター>、銃器や特殊な武器を使うタイプ<ガンナー>、魔法を使うタイプ<フォース>だ。他にもたくさんのクラスがあるが、主にこの三種に大別される。

 クラスによって特色があり、装備できる武器も違う。酒場のオヤジの<モンク>は肉弾戦に特化したクラスで、ファイターに分類される。攻撃力や防御力、素早さに秀でている職業だ。その代わり、ハンドガンなどの銃器は装備する事ができず、魔法も殆ど使えない。

 俺はちなみにファイターに分類される<ハンター>という職業だ。入門者用の銃器なら使え、魔法も高度なもので無ければ使える。

 もっとも、こういったクラスによる差異や制限も、冒険を進めていくと次第に緩和されていく。つまり、初期では使えなかった魔法も使えるようになったり、職業の制限で装備できなかった武器が装備可能になったりするのだ。但し、最上級の特殊な武器を装備できるか否か、上位の強力な魔法を習得できるか……等は別だ。クラスごとの特権となっており、アヌビスゲートの面白い所でもある。

 ちなみにハンドガンは、俺のクラス<ハンター>の場合、攻撃力が20を超えると装備できるようになる。


「ガンナー……この辺に居たか?」


 俺は立ち上がると、周囲を見回してみる。一騒ぎしてしまったせいで、だいぶ野次馬が集まってきているようだ。

 職業の違いは装備にも表れるが、服や衣装にも分かれる。ファイターは軽装が多いし、モンクは――このオヤジもそうだが、タンクトップだったり半裸だったりと存外分かりやすい。ガンナーならば、腰にガンホルスターを引っさげていたり、肩から重火器をぶら下げていたり、だろう。少なくとも周囲にそんな格好の奴は居なかった。

 まぁここはシンジュク、最初のプレイヤータウンだしな。初心者が装備できないハンドガンとかを装備する<ガンナー>が、初心者用のプレイヤータウンに居ないのは道理である。

 いや、待てよ……。あれ、一人だけ心当たりがあるぞ? 昨日の夜、ギルドに居た金髪エルフがガンナーっぽかったな……。

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