第7話1日何文字書きましょう?
「何文字って一体何文字書いてるだろう」
私は右下部分に表示される文字数を確認した。うん。今日は千字も超えてないかな。文字を打って消してを繰り返し、ほとんどストーリーが進んでいなかった。遅筆といえば聞こえは良いけど、内容は大したことないし本当に遅いだけだ。ため息つきたくなるけど仕方ない。進まない時は本当に進まなかった。
「検索してみましょう」
かわいらしい声が聞こえて、ふっと静かになった。バーグさん、リンドバーグさんはカクヨムの公式キャラクターで、カクヨム内で小説を書くカクヨムユーザーの手助けをしてくれる。資料の検索から誤字脱字の確認までやってくれる。書き手の意識を高め、より良い作品を仕上げられるようそれこそ全力で支援してくれるのだ。そのおかげで私はこうして小説を書くという作業を続けられる。
「プロになる方は、1万字は超えるようですね」
「へ?」
バーグさんがいくつか例となる記事を表示してくる。コンスタントに依頼が来る人は、体調が悪い日をのぞいて毎日1万字を書く。さらに毎日、2万字を越え、名のある作家となるとそれ以上になるらしい。
「一晩で短編書き上げるって言うしね」
バーグさんが用意してくれた記事のリンクを、いくつかクリックしていく。プロではなくてもコンテストで入賞する人は、5千字から1万字は書くと語っていた。自分はと言えば、1万字を超える日は1日もなかった。
「普段から、書くことが日常になっている方ですね。書かない日があると気持ち悪いと言う方もいます」
「まるで中毒だ」
「そうですね。喜ばしいことです」
バーグさんはふふっと笑って肩までの髪を揺らす。優し気に見えるが、バーグさんはスパルタだ。体育会系だ。私にも毎日1万字を要求するのではと身構えていた。
「ストーリーがあふれてとまらず、書かずにいられないという方もいます。こうななると、作家としての道を歩むしかないでしょう」
「漫画家とかもそうかな」
イメージが浮かんで頭から離れないと聞いたことがある。自分に書いてってアピールする物語が、お風呂に入っていても、食事中であっても浮かび続けるんだそうだ。
「そうですね。きっと物語が選ぶのでしょう」
「物語が、選ぶ?」
「千鶴子様にもありませんか?これこそ、私が書く物語だ!っていう瞬間が」
ヒラメキのことを言っているのだろうか。私はちょっと考えて曖昧にうなづく。私はアイデアが浮かんで、書ける!と思う瞬間がある。技術的にはアレだけど、そうすると書きたい気持ちが高まるかな。
「書いていない時間も考えるのではありませんか?次の展開はどうしようって無意識に」
おっとりと笑うバーグさんの質問に、これにははっきりうなづいた。悔しいことに、これで最後だと思っても、次の物語が浮かんでくるのだ。不完全燃焼だった場合は、過去の作品を引っ張り出して推敲することもある。
最初は、ちょっと書ければ良いと思うだけだったのにね。
「千鶴子様は。小説のコンテストを探されているでしょう?カクヨム以外の」
「カクヨムのコンテスト以外にもたくさんあるから。いけなかった?」
浮気したような気持ちになって決まりが悪く首をすくめると、バーグさんがにこやかに笑った。
「構いませんよ。お手伝いができないのが残念ですけれど」
カクヨム以外では当然だけどバーグさんの姿は見えない。それでもいつもバーグさんの話しているように、執筆活動を続けている。こうして相談しながら執筆できるって幸せだな。一人だったら絶対続いてない。今、想ったことをそのまま伝えると、バーグさんの顔が花がほころぶように柔らかくなった。
「それでは私も、今まで以上に千鶴子様をサポートしますね」
「今のままでいいかな」
たははと笑って書きかけの小説を削除して書き直すことにした。
「1万字も書けないけれど、私は私のペースでがんばるよ」
「大丈夫です。千鶴子様なら、1万字超えるようになります。書き続ければ」
いつもと変わらない会話、いつもと同じ言葉を繰り返すバーグさん。
再びキーボードを叩き始めた、真っ白な世界に黒い文字を埋めていく作業。その中には笑い、悲しみ、喜び、怒り、憎しみ、たくさんの感情が渦巻き、日常から非日常へと出かける扉が開かれている。
私、もしかしたら幸せなのかもしれない。
誰もいない静かな部屋の中、私は一人、笑みを浮かべていた。
書き続けましょう!命ある限り! 天鳥そら @green7plaza
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