第5話報酬欲しいですか?
「欲しいです」
即答した私に画面の中で微笑んだ。
「では、登録しましょう」
カクヨムでは定期的にコンテストが開催され、受賞したカクヨム作家さんには賞金が支払われる。作家を応援した読者にもプレゼントがあるなど、ちょっとした楽しみもあるので盛り上がることも多い。それが今度はカクヨムで小説を書く人全員に、報酬が支払われるシステムが導入された。報酬が支払われるのは嬉しいが、自分は登録したいかどうか首をひねる。登録するかどうかで悩む私に、バーグさんがにっこり笑って報酬欲しいかと聞いてきたのでうっかりうなづいてしまったのだ。うーん。やっぱり欲しいよね、現金。私の答えに軽くうなづくと、バーグさんは手慣れた様子でさくさくと登録の手続きをしてくれる。
「辞めたいと思えばやめられるんですから、やってみたらよろしいのに」
呆れたような顔されて私は顔を赤くした。私ってばいつもそう。初めての取り組みやチャレンジに腰が重い。他のカクヨム作家さんは今回の新しい取り組みに向けて、さっさと準備を始めてた。更新頻度が多く頑張ってるなと思うこともあった。私はと言えばいつものように、マイペースで執筆を続けている。
「この前、初めて金額が出ましたが、すでに稼いでいる作家さんもいますよ」
「うん。知ってる」
3000円から換金できるって話だから。それ以上稼がなければいけない。もともと人気のある作家さんは稼げるんだろうなと私は卑屈になっていた。
「千鶴子さまも書けばよろしいんですよ。読んでくださる読者様がいるのですから」
「そう……なんだけどね」
更新速度が速い上に面白いお話が書ける。なんて羨ましいんだろう。しかも長編シリーズを複数もち、短編も書き上げていくのだ。本気で取り組む人たちの熱意に負けそうだった。
「報酬はきっかけですよ。コメントや読者様からのアクションもすべてそう」
バーグさんのはちみつ色の瞳がきらりと光る。
「千鶴子様にはわからないかもしれませんが、千鶴子さまの小説を楽しみに待っている読者様もいるんですよ」
「うん。そうかもしれないね」
力なく微笑むとバーグさんの笑みが深くなった。
「ですから、長編小説に挑戦しましょう!」
「中短編小説で精一杯です」
「中編小説が書けるならあと一歩じゃないですか!書けます!」
そう、バーグさんは長編小説を押している。報酬をもらうことに対して、気乗りしない私の背中も強く押す。
「私、リンドバーグが、微力ながら千鶴子さまの執筆活動をお手伝いいたします」
そんなことカクヨム作家さんになら、誰にでも言ってるんでしょ?
ちょっと意地悪なことを考えてリンドバーグさんににこっと笑った。長編小説に挑戦するかはともかく、定期的に更新するのは大切だ。書きかけのショートショートを眺めて、パソコンの右下、画面に表示される時刻を確認してうなづいた。
「今日中にショートショートを書きあげちゃう」
「その調子ですよ。千鶴子様!」
ぐっと拳を握るバーグさんに微笑んで、キーボードを素早いとは言えない速度で叩く。バーグさんの誤字脱字の指摘に、唸りながらもショートショートを一遍書き上げる。こうやって書きあがると爽快感がある。晴れ晴れとした気持ちで更新を終えると、バーグさんがキラキラした瞳を私に向けてきた。
「ショートショートでしたら、百本ぐらい書きませんとね」
バットの素振りじゃないんだから……。
力なく私は笑い、画面に表示されているカクヨムのページを静かに閉じた。
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