第二章 4.

 そして昼食は、トウヤの釣ってきた魚を塩焼きにしたものと、朝とは別の野菜を使ったスープだった。野菜が甘く、ティセは改めてトウヤの料理の腕に感嘆してしまう。

「以前は、料理をよくなさったんですか?」

 少しだけ抵抗があったが、これくらいなら彼の琴線に触れることはないだろうという目論見もあった。料理の腕を褒められて、嬉しくない人間がいるはずがない。

 トウヤは手を止めて、少し謙遜するように答えた。

「別に、それほどは……食べてくれる人がいたから、作っていただけだし、それも、簡単なものばかりさ。こんな風な、手軽な料理ばかりだよ」

「でも私、料理はできないんです。一度も厨房には入らせてもらえなくて」

「僕だって、人に自慢できる特技じゃないよ。趣味みたいなものさ」

 素知らぬ口調で言うので、そんなものだろうか、ティセは思った。もしかすると、美味しいと感じるのは『誰かの為に』作った料理だからなのかも知れない。

(きっと、トウヤさんにとって大切な人がいるんだわ。……いた、と言う方が正しいのかも知れないけど)

 トウヤの、癒えきれていない心の傷。それはきっと、その『誰か』に関係するものなのだろう。しかし、それをティセが知る権利はない。まだ、彼にその話をしてもらえるほどの間柄ではないのだ。

「どうしたの? 魚は苦手だった?」

 トウヤに言われて、はっとする。手を止めて、じっと考え込んでしまったことに気付き、ティセは顔を赤くした。

「な、なんでもありません」

 照れた顔を見られたくないので、俯きがちにモグモグと魚を食べる。彼女の内心に気付いているのかどうかは分からないが、トウヤは苦笑しながら言った。

「落ち着いて食べなよ、誰かに言われたんだけどさ」

「~~~、分かっています!」

 思わず甲高い声で言い返してしまうティセ。トウヤは、楽しそうに笑っていた。

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