幕間Ⅰ 3.

 記事自体はは小さい扱いだ。だが、そこに書かれたニュースにリイザルは息を呑んだ。

 それは人捜しの記事。起稿したのは城下の貴族である、ローラ家だ。


  尋ね人:ティセ・ツイツ・ローラ

  詳 細:ローラ家の一人娘、ティセが十二月六日の未明から行方不明と

      なった。情報または、ティセ本人を捜し出すことを希望。

  報 酬:金貨百枚。


 町人たちであれば、報酬に目がいくだろう。金貨一枚あれば、おおよそ一月暮らしていけるだけの額だ。それが百枚……市民にとっては、桁違いの大金である。

 しかし、リイザルが反応したのはそこではない。むしろ、彼にとってはリシュウト金貨百枚など大した金額ではない。問題は、尋ね人の名前である。

「そんな、バカな……!?」

 ティセ・ツイツ・ローラ。その名前こそ、リイザルが今日、城下へとやってきた理由の、残り半分が彼女だった。

 初めこそ、確かに政略結婚だったのかも知れない。が、幾度か会食や会話を重ねるうちに、彼女の誠実さと思慮深さ、そして慈しみの心に触れ、リイザルが本気になるのに、長い月日は必要なかった。

 今日だって、前々から会う日を決めていたはずだ。城下を二人で巡りながら、王子とその婚約者は幸せであると、民に伝える目的もあったはずなのだ。

 だというのに、そのティセが行方不明になったというのだ。どうして、それが自分に伝わっていないのか。

 いや、今はローラ家の不作法を責めるべき時ではない。目下最優先は、ティセを探し出し、家へ帰すことである。そのためにはまず、情報が必要だった。

 リイザルは新聞をぐしゃりと握り潰す。すぐさまローラ家へ向かおうと踵を返した、その時、自分を呼ぶ声が聞こえた。城に使える伝令役の若者だ。

「リイザル王子! 至急、お耳に入れたいことがございます!」

「……聞こう」

「……ローラ家のお嬢様が、昨日未明より、行方不明になったと、先方から連絡がありました」

「知っておる」リイザルは、尚固く、拳を握った。「新聞で読んだ。……ローラ家へ行く。おまえは、近衛騎士団に伝令を頼む。至急、情報を集めろ、と」

「はっ!」

 伝令は走って城へ向かう。リイザルは忌々しげに新聞を投げ捨てると、ローラ家のある街道をずんずんと進んでいく。途中ですれ違い、深く礼をする民たちに愛想を振りまくことも忘れ、彼の胸中はただ一点――ティセを探し出すことだけに、執念を燃やしていた。

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