幕間Ⅰ 2.

 とはいえ、恐れられるのは本意ではない。父親の七光りで王になるのではなく、リイザルにはリイザルなりの目的意識と高い理想があり、それを以て民衆を導くつもりでいるのだ。が、その旨を問い質された時の応答があまりに過激で、ともすれば暴君ととられてしまいかねないものだったのは、彼も反省している。

 だが、言を取り消すようなことはしなかった。王の言葉は、絶対である。その『絶対』がふにゃふにゃと様変わりし続けたら、そんな王には誰もが不安を覚えるだろう。そのためリイザルは、より思慮深くあれという父の言葉を受けて、あれこれと考え、行動しているのだ。この日城下へやってきたのも、半分はそれが理由だった。さておき。

 リイザルも幾枚かの新聞を拾い、少年に渡す。彼は、ぽかんとした表情でリイザルを見上げていたが、他意のない笑顔を向けてやると、恐縮したように顔を赤くしながら、新聞を受け取った。

(怖いんだろうな、ボクが……)

 争いは好まない質で、戦争だって怖い。だが、自分は王子なのだと何度も言い聞かせ、この国の存続のためなら、戦争が起こり得ても仕方がないということを常々言い続けている。それは言うならば、民に向かっていざとなったら死ね、というのと同じことだ。

 だがリイザルは真逆だった。自分が戦闘の最前線に立ち、そして国を守るためならば、命が散っても構わないと、そう思っていた。

 王――王家は、民に尽くされてこその存在だ。だからこそ、戦争という非常時において、王は真っ先に民のために尽くすべきなのだと、リイザルは思っている。それは非常に若く青臭く、輝かしい理想に満ち溢れ、絶望という汚れを知らない無垢な想いだった。

「――この新聞、今から貼りに行くところか?」

「あ、は、はい。そうです!」

「城には直接それが届くようになっている。が、今日の分はまだ読んでいない。よければ一部、もらえないだろうか?」

 新聞屋の少年は、一瞬だけ迷った。紙は高級品だし、手で写文した新聞は城下街の掲示板と同じ数だけしか用意していない。だから貼り出すのを待って欲しいというのが、彼の本音だった。

 しかし、雪に濡れた新聞を見下ろしながら考える。下手に断って、首でも刎ねられたなら、この新聞は雪のみならず、血にまで汚れてしまうだろう。もちろん、掲示板に貼る貼らない以前に、自分がここで死んでしまうということでもある。

 少年は震えながら、一番マシな新聞を、リイザルに差し出した。

「うむ、感謝する。少々用があってな、ついつい日課を忘れていたところだった」

 だが少年は、その言葉にまともな返事を返すこともできずに、頭を下げて駆け出していった。リイザルは、受け取った新聞を持ったまま、ぼうっと少年の背中を見送ることしかできない。

「ふぅ……」

 ややあって、彼は自嘲的な溜息を漏らした。仕方がない。これが民からの、今の自分への評価だ。

 リイザルは新聞に目を落とす。手書きで何部も写文された新聞だが、読みやすい字で書かれている点はさすが職人技といったところだ。普段ならば気にもしないだろうが、実際に新聞屋の少年を目にした後だと、彼が強張った顔で一文字一文字を書き写していく様が想像できて、いつも以上に新聞を身近に感じることができた。むろん、まだまだ一番下っ端の少年では、紙面にペンを走らせることはできないのだろうが。

 リイザルは新聞を読む。隅々まで読む。そこに書かれている記事の一つ一つを、よくよく吟味し、そして自分の価値観と比較評価していく……はずだった。その前に、リイザルの目を引く記事があった。

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