②21歳ニート 兆候

 元々勉強をすることは好きだった。知識を吸収するのが楽しかった。しかし学校は好きになれない。

 このスタンスは高校に入学しても変わらなかった。志望校だった公立高校受験に落ちてしまい、滑り止めの私立高校に入学した。環境が変われば自分の気持ちもリセットされてリスタートできると思っていたが、そう簡単には上手くいかなかった。

 同じ中学から進学した友人は何人かいたが、そもそも滑り止めで入った学校だから、不本意な形で高校生活を送らざるを得ない状況を受け入れたくない人もいた。その中で、真面目だった友人が不良と化して半年経たないうちに退学したのは衝撃だった。友人は、私が退部した吹奏楽部でサブリーダーを担当していたからだ。部長、副部長の次に権限があり、後輩を率いて指導した実力の持ち主。中途半端に辞めた私と違って綺麗に部活動を卒業した人間。そんな友人がどうして、と非常に残念に思った。勉強も部活も真面目に取り組んでいた友人が、高校ではタチの悪いクラスメートとつるむようになり、すっかり近寄りにくい存在になってしまった。

 部活動を辞めて元部員達から針のむしろ状態を味わった中学時代が苦しかった私は、3年間の部活をやり遂げて存在自体が眩しく思えてた友人が猛スピードで普通の高校生から道から外れていくのを、傍観者のように見ていくしかなかった。


 高校では、私は部活動には入らなかった。その当時は学校に通うことだけが精一杯で、部活動に参加する体力まで余っていなかった。高校は欠席日数も進級の指標となることと、欠席日数次第では大学進学が危ういと教師に言われたことで、部活動に入る気はさらさら失った。中学時代のように人間関係に息苦しさを感じて目眩を起こしながら部活動に参加するのはもうこりごりだった。おかげで欠席は年数日に留められた。

 高校卒業後は進学がしたいと入学当初から考えていた。勉強は好きだし、学びたいことはまだある。そして、就職がしたくなかった。漠然と、就職が怖かったのだ。

 私のような甘ったれで弱い人間が社会に出たところで生きていけるものか。就職を先延ばししたくて進学コースを選び、四大希望だったが金銭的な都合で短大に変更し、その中から学びたい学部を選んだ。

 可もなく不可もなく。汗だくになって頑張った経験や甘酸っぱい思い出を作ることもなく。惰性で高校に通い続け、無事卒業した。




 短大に入学したはいいが、私は家庭の金銭的な事情で四大進学を諦めた経緯がある。進路について親と相談したときに「大学に行かせられるお金は無い」ときっぱり言われ、なんとか譲歩して奨学金を視野に入れた上で短大進学を許してもらえた。そのような金銭事情から、父親から二言目には「アルバイトはしないのか」と尋ねられていた。

 「4月はバタバタしてるから、学校生活に慣れてから」と伝えても父の顔は渋い。父は感情が顔に出やすい性格だ。それじゃー困るんだよ、と訴える目に私は焦った。

 そうだよ、無理言って短大行かせてもらってるんだから、アルバイトして自分の遊ぶ金くらいは稼がないと。高校時代は夏休みと冬休みに学生の短期バイトで働いた経験があったし、長期でバイトをしている友達の話を聞いたらそれなりに面倒と思いつつ働けている。

 中学の部活動は続かなかったから、今度はバイトを頑張ろう。そう決意した。

 そして私は短大で学生生活を送る傍ら、地元の個人商店でアルバイトを始めた。


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