僕の物語

暗黒騎士ハイダークネス

第1話


 増えていくPV数が、応援数が嬉しかった。


 みんなからの応援メッセージが書く励みになった。


 何よりも自分の作品が誇らしかった。


 初めはこんなにもただ純粋に・・・


『嬉しかった』『楽しかった』『誇らしかった』


 自分の作品をこんなにも多くの人たちが見てくれるのを、小説管理のところで、にやにやしながら眺めていたりなんかもしていた。




 だけど、いつからだろう・・・


 増えていく作品への期待が嬉しいということよりも、重いという気持ちに変わったのは・・・


 応援メッセージが励みから、頑張らなきゃという自分への追い込みへと変わったのは・・・・


 自分の作品が、誇らしいという感情は未だ変わらない・・・だけど、それよりも何よりも作品が失望されて、自分のせいでファンが離れて行ってしまうことが怖かった。


 それが徐々に僕の心を蝕み、メッセージに『大丈夫?』『体調悪いの?』『スランプ?』という言葉が増えていった。


 その言葉の通り・・・自分ではわからないけど、たぶん・・・僕はスランプになってしまっていたようだ。


 あんなに文章の中のキャラクター達は楽しく動いていたはずなのに、いつからだろう?文章の中の僕のキャラクターたちが笑わない・・・今では苦しいって、もうやめようって叫んでるような気さえした。


 でも、苦しくても書いた。


 この誇らしい作品を誇らしいまま終わらせるために・・・僕が僕自身に失望しないために書き続けた。








 でも、サポートAIのリンドバーグはそんなことも知らずにただ話しかけてくる。


『今日のは~作品下手なりに頑張ってますね、でもですね!ここはもうちょっとこうしたほうがいいですよ!』


 などとそんな言葉をズバズバ、こっちの気さえ知らずに言ってくる。


 当然のごとく、ある日の夜、僕はリンドバーグへの我慢の限界が来た。


「もう!!やってられるか!!」


 椅子から立ち上がり、布団にくるまる。


『え?え!??どうしたっていうんですか?作者さん』


「うるさいうるさいうるさい」


 もう画面なんか見たくないんだ。


『心配してるのにうるさいとは失礼ですね』


「お前になんかに言われたくないんだよ!このポンコツAI!!」


 心配?心配だと・・・僕の気持ちも知らないでズバズバ言うくせに!!


『な!な!!なっ!!!よりにもよってポンコツAIってなんですか!?ポンコツAIって!!』


「ポンコツAIだから、ポンコツAIって言っただけだ。ポンコツAI!」


『ムキー3回も!!3回もっ!!!言いましたね!絶対忘れないように私のメモリに記憶して後でグチグチ言ってやるんだから!!』


「もうやらねぇよ!!!」


 そうだ・・・もう作品なんて書くことなんてない。


 だから、リンドバーグにもう会うことなんてない。


 もう小説を書くのをやめるんだ、僕は。


『・・・え?もうやらないってなんでですか?』


「・・・・疲れたんだよ!もう!期待とか大きすぎて、こんな素人に押しつけてくるんじゃねぇよ・・・もう書くのが苦しいんだ。僕のキャラクターたちが僕に笑いかけてくれないんだ」


 数瞬の沈黙の後、彼女は悲しそうにつぶやいた。


『・・・・そうですか、残念です』


「・・・もう寝る!」


 そう布団にくるまり、目を瞑る。


 だけど・・・彼女はまだ1人で話し続けた。


『最近スランプ気味でしたもんね・・・でも、私は知ってますよ?あなたがどれだけこの作品と真剣に向き合っていたのか、どれだけ私と一緒に面白くなるように手直ししたのか、どれだけこの物語を愛していたのか、全部全部知っています』


「・・・・」


『いつも笑顔!』


 リンドバーグは突然自分のプロフィールにある座右の銘を言い出した。


『そうです!これは私の座右の銘です!!作品のキャラクターが笑わないんじゃないんです・・・作者があなたが笑ってないのです!!あなたが楽しくないのに作品が笑うはずなんて無いんです!!これはあなたの!物語なんです!誰かの期待なんかの為じゃない!!あなたの笑顔の為に書いてください!!この私が!あなたの1番のファンがそう願っています!』


「もう書かないって・・・言ってる、だろ・・・」


『その目の涙の後はなんですか!?私のメモリはしっかりと記録していますよ!本当はあなただって、書きたいんでしょう?』


 本当に無駄に高性能な機能がついてるポンコツAIだ・・・だけど、僕は、本当に・・・


「・・・まだ、書けるかな?」


『書けますよ?あなたの1番のファンであるこの私が保証します・・・ですから、今はゆっくり休んでください。きっと休めばいい物語なんていくらでも書けちゃいますよ、私が隣でサポートしますしね』


 そんな小さなつぶやきも彼女はしっかりと聞き逃さずにそう返事を返してくれる。


「・・・・うん、もう少し頑張ってみようかな」


『はいっ!』





【死闘の末に、魔王と倒し、七人の嫁とともに勇者は異世界で幸せに暮らしましたとさ】


『どんどん~ぱふぱふ~作品完結おめでとうございます!!』


「うん、ありがとう・・・」


 そう大喜びするAIに照れくさそうに俺はお礼を言う。


『あ、そうだ・・・次は何書きます???あ、この終わり方だとこの作品の後日談とかですかね!?今からワクワクする気持ちが止まりませんね!!』


 そうパソコンの画面にわくわくするという気持ちをエフェクト表示させてくる。本当に無駄に高性能AIで・・・だけど、本当に次の作品が楽しみだということがちゃんと伝わってくる。


「いや~ちょっと、いったん休憩したいかな・・・」


 この作品も長くて、いろいろあったし、期間を置きたいのは本音だ。


『え~まぁ、残念ですけど、仕方ないですね・・・私は他の作品を見てきますね!ではでは~』


 そう言うと煙のエフェクトを出しながら、僕のパソコンの画面から消えた。


 そうして、俺は今日もパソコンへと座りなおす。


 カクヨムとは違う、ただのメモ帳を開く。


 カクヨムのサイトではないので、ここなら、リンドバーグに見られることはない。


 ここに新しい物語を・・・リンドバーグと僕の思い出を書き連ねていこう。


 彼女は嬉しがるかな?それとも、恥ずかしがるのかな?逆に怒ったり?まさか・・・感激して泣いちゃったり?


「ふふっ」


 今から思い浮かぶ彼女の顔を想像しながら、僕はまた新しい作品を、新しい世界を生み出すために画面へと向かうのだ。

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