桜とトリとアイディアと

黒幕横丁

桜とトリとアイディアと

 久々の何の用事も無いオフ。こんな日は滅多にないからと、最近更新を溜めていた小説でも更新してみようかと文章作成ソフトを開くが、随分と間が開きすぎて続きの話をすぐに思いつくことが出来ない。

 うーんと腕組みをしながら点滅するカーソルを見ていると、まるで、某消せない海洋生物かのように、ひょっこりと画面内に一人の少女が出現する。

『作者様、15分ほどカーソルが動いていない状態が続いています。生きていますかー?』

 作者支援用のAIである、リンドバーグ。通称バーグさんはそう言って私の方に向かって手を振る。もちろん、私が死んでいるわけではない、でも、続きのアイディアがなかなか出てこないのだ。

 私は文章作成ソフトへ彼女に語りかけるかのように文字を打ち込む。


【続きのアイディアがでない】


 と。すると、その文字を見て彼女は。

『あー、長く更新されてなかったですものね。確か三ヶ月ほど更新が止まっていますね。コメントで続き早よってよく催促されているのを見ました』

 うっ……と言葉に詰まってしまう。この支援AIは作者の精神力を削るのがどうやら得意らしい。

『大丈夫です! 作者様なら、捻り出せればアイディア出ますって。あのコンテストの時の猛追を思い出せばすぐですって!』

 バーグさんは頑張れと応援してくれているようだけども、締め切り三日前に5万字を書くというデスマーチをした某コンテストの記憶は出来るだけ思い出したくない気分だった。

『外は暖かいようですし、気分転換でお散歩してみるというのもいいかもしれませんよ♪ いってらっしゃいませ』

 バーグさんに言われて部屋の窓か外を見る。見る限り日差しは暖かそうだ。ニュースではそろそろ桜が満開というところもあると見た気がするな。

「ここは、気分転換で花見でも行こうかなぁ」

 今日は平日だし、日中なら花見客もそんなに居ないだろう。私は一旦パソコンの電源を落として、出かける準備をした。


 コンビニでお菓子と飲み物を買って、ソメイヨシノが植えられている近所の広場までやってきた。桜はやや満開くらいの咲き具合で薄いピンク色に染まっていた。

 広場は平日にしては人気がなく、一人で花見を楽しむのには持って来いだった。

 ベンチに腰掛け、ノート広げ、ペンを持ちスティックタイプのチョコをポリポリ食べながらぼーっと桜を眺める。

「何か面白いアイディア降ってこないかなぁ……」

 続きが盛り上がりそうな話を……と考えていたその時だった。

『アブナーーーーイ!』

 遠くの方から叫ぶ声が聴こえ、気になって振り返ってみると。


 モフッ。


 顔面に何かモフモフしたものが激突してきたのだ。

 慌てて私が引き剥がすと、それはフクロウ的生き物だった。

「……フクロウだよな?」

 私が訝しげな表情でその生き物を見ていると。

「すいませーん。トリがぶつかっちゃって。お怪我はありませんでしたか?」

 私の前に、まるでファンタジーノベルに出てくるような姿の少年が現われたのだ。

「トリ? この生き物の名前なのか?」

 なんとも捻りのない名前である。

「はい。あ、僕の名前はカタリと言います。僕たち、使命があってここにやってきたんですけど。いきなりトリがお兄さんのところへ飛び出して行っちゃって。本当にごめんなさい」

「怪我は無いから大丈夫だよ。もしかして、お菓子に釣られたのかもね」

 私が先ほど食べていたスティックタイプのチョコ菓子をトリに差し出すと勢い良く食べ始めた。

「まさかの食い意地!」

 カタリもトリ行動に唖然となった。

「それより、使命って言うのは?」

「あー、僕は世界中の物語を救う使命をこのトリから与えられたんです」

 なんとまぁ、壮大な話だ。

「それで、必要としている人に物語を届ける仕事をしているんですけれども、おっかしいなぁ?ここら辺で合っていると思っているんだけど」

 カタリはカバンからやけに古い地図を取り出して睨めっこを始める。私もそれをちらりと覗いてみた。

「それ、ここら辺の地図ではないね。少なくとも」

「え、そうなんですか!? またやってしまった」

 カタリはそういうと肩を落とす。どうやら根っからの方向音痴体質らしい。

「また、飛ぶところからやり直さないと。お兄さん、いろいろとありがとうございました! ほら、トリも」

 カタリはトリの頭をむぎゅっと押して、私へ強制的におじぎをやらせる。

「まぁ、頑張って。君たちの使命が成功することを願うよー。あ、あとこれ」

 私はカタリにオレンジジュースの入ったパックジュースを渡す。

「え、これって」

 いきなりモノを貰ったのでカタリは驚きの様子で私をみた。

「頑張ってねという意味合いと、ネタ提供料も兼ねてね」

「ネタ……提供料?」

 意味が分からず、カタリの目が点になっていた。

「まぁ、深いことは気にしない気にしない。それより、行かなくていいの?」

「あ、そうでした。本当にありがとうございます。トリ行くよ!」

 カタリの掛け声と共に、トリとカタリ、二人とも瞬時に消えて行った。まるでファンタジーの世界そのものであった。

 私はそんな二人を見送って、背伸びをする。

「さて、続きのネタになりそうな話をゲットできたし、もうちょっと花見を楽しんで帰ろうかなぁ」

 そう思って、私は持ってきたノートにペンを走らせる。


 【咲き乱れる桜の下で出会う、神の使いの鳥と使命を背負った少年のお話】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜とトリとアイディアと 黒幕横丁 @kuromaku125

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説