第6話 素直な悪ガキ\(・へ・)/
オイラの名前はレクト・アルレシア。
11歳、両親と妹の四人家族。
俗に言う――ガキ大将だ。
というのも、このケノビバタアシュ国、王都『セントーク』は4つの地域に分かれていて、それぞれが互いに意識し合っている。
あの地域には負けたくない、あの地域より儲けてやる、あの地域の奴らは足がくさいらしい……。
年に一度の祭りとなれば、昼間から酒を飲んだいい年下大人たちが
大人たちがそんな有様なのだから、当然、敵対心は子供たちにも芽生えていて、四つのグループに分かれ、
オイラは、この王都南西地域『クーロス』に住む子供たちをまとめ上げる男。
ガキ大将として常に先頭に立ち、日夜、
先日、とある地方の下っぱが、他地方の参謀の答案用紙(0点)を盗みだし、掲示板にさらすという事件が
それにより過去最大規模、
というわけで、暇だ暇だと言いながら街をうろつき、けっ飛ばす石もなくなって噴水で遊ぼうとしたら、雨が降らないから枯れてるし……。
そんな究極の暇をもてあましていたオイラたちだったのだが、ついに、とても面白いものを発見した――!
向こうから鼻歌を歌いつつ、スキップで近づいてくるあれは……。
間違いない、最近何かと話題の――ギャルだ。
いいこと思いついた。
オイラは後ろを振り返ると、仲間たちに呼びかける。
「おいみんな、今日の遊びは――ギャル狩りだ」
※
「痛っ!」
噴水のかげに隠れて待ち伏せし、タイミング良く石を投げつけると、奴が悲鳴を上げた。
「ちょっと、いきなり何すんのよ!」
「いまだ! いっせいにやれ!」
怒った顔でこちらに近づいてくる奴。しかしオイラの号令によって、仲間たちから小石の集中砲火を受ける。
「ちょ、痛い! や、やめなさいって……!」
奴は顔を手で守り、体を縮ませて攻撃を防ごうとするが、多方向からの攻撃にじわじわと追いつめられる。
と、そのとき。どこからか声が響いた――!
「大丈夫ですか、ギャル様!!」
驚いて、その場の全員が声の出所に視線を向けると、そこには――遠くから走りよってくる執事の姿があった。
「アルメ! たすけて!」
安心したように執事へ呼びかけるギャル。執事はかなりの
時を同じくして、こちらの集めた小石がそこをつき始めていた。それにより焦った仲間の一人が、とっさに近くに落ちていた石を拾って、確認もせずに投げてしまったのだ。
そして、その大きな石が――執事のこめかみに命中した……!
「うっ……!」
「きゃあ! アルメ! アルメ、大丈夫!?」
こめかみを押さえてその場にうずくまる執事。ギャルはすぐさま心配の声を上げた。
一方、オイラたちは、やってしまったと互いに気まずく顔を見合わせ、ただ突っ立っていることしかできない。
とても長い間、生きた心地がしなかった。
「おのれ……っ」
微かな声が、鼓膜を揺らした。
聞こえたかどうか不安になるくらいに小さな――どす黒い声。
聞き覚えのないその声に、オイラたちは戸惑ったけれど、声の主は奴しかいない。
ギャルは鬼のような
「うちのアルメに……何してくれとんじゃぁぁぁぁああああ!!!」
※
「に、逃げろ!」
あれはマジでヤバイ!
今までの経験からオイラの直感がそう告げていた。仲間たちに呼びかけ、オイラはリーダーとして先陣を切って走り出した。
それに続いて仲間たちも一目散に走る。素早さでは誰にもまけねぇー、空き地で鍛えた脚力を見せてやるぜ!
しかし……、しばらく走ったところでオイラは何か違和感を覚えた。
声は聞こえるのに足音が聞こえない、その声もさっきより小さくなっている?
まさか!
あの異世界人――追ってきてない!?
すぐさま振り向くと、やはり奴はもとの位置に立っていて――仲間が一人捕まっていた。
「逃げるな! この子に何があってもいいのか?」
「ん~~!!」
口を
「
※
「さあ、この子をどうしてやろうか。どうしてやろうか?」
「やめろ!!」
仲間の女子――メルナを人質に取りながら、ゲスな
ついに本性を
しかし、敵はのんきにこんなことを言う。
「あれれ? この子、よく見たらすごくかわいいじゃん! ねぇ?」
いや、ねぇって言われても……。
「近くで見るとますますかわいい。ねぇ? そう思うでしょ!?」
「……………………??」
いや……、確かにかわいいけど……っ!
「ねぇ――どんなパンツ履いてるの?」
「……っ! いきなり何てこと質問してんだ! しかも真顔で!」
思わずツッコんでしまった。何だその酔っ払ったエロオヤジみたいなノリは!!
「ねぇ? ねぇ、答えてよー」
「んん~~!(泣)」
「やめろ!」
嫌がる彼女に対して、ギャルはいっそう下品な顔で詰め寄る。それどころか、今度は彼女のスカートの
「ほらほらー、答えないなら直接見ちゃうぞー?」
「ん~~、んん~~!!」
「いい加減にしろよ! 口塞がれてるのに答えられるわけないだろ!」
「そっか――じゃあ直接見ちゃおう!」
そう言うと、ギャルは裾をゆっくりと、本当にゆっくりと持ち上げる。オイラはそれを止めるために全力で叫んだ。
「やめろぉぉぉぉぉおお!!」
「あれ? ちょっと待って――」
ぴたり、とギャルの手が止まる。それから少し考えて、奴はこう言った。
「さっきから、口ではやめろやめろって言ってるけどさ――全く、止めようとしてないよね?」
「……え?」
「おかしくない? 本当に止めたいんなら、殴りかかるとかこの子を助けにくるとか、そういう行動をとるべきじゃない? 何で? 何でなにもしてこないの?」
「……っ!」
何でって言われても……。深く考えていなかったので、返答に困る。
オイラは自問自答を繰り返し、ようやく絞り出した答えをギャルに告げる――!
「だって……見たいじゃん……?」
「素直でよろしい!!」
「やるならできるだけ長くしてくれ」
「あんた、もう助ける気ないだろ!?」
「パンツ……見たい」
「言っちゃったよ! 今ふつうに言っちゃったよ!?」
オイラは、なぜか
「ゴホン。い、いいからその手を離せ、卑怯者!」
すると、ギャルは突然、眉間にしわを寄せた。
「卑怯者? 言ってくれるわね、でも――それはそっちのほうじゃないの?」
「は? 黙れ悪党め、そんな口車には乗らないぞ!」
「そもそもさ、あんたが石なんて投げなければこんなことにはなってないよね?」
「それは……敵を攻撃して何が悪いんだ!」
「敵? 私が――私やアルメがあんたに何をしたっていうの?」
「……っ!」
ギャルは間髪入れずに話し続ける。
「何を根拠に私たちを敵だと思ったの? 確かに私は異世界人だけど、アルメは違うよね? ねぇ!?」
「だから、それは……」
「それは――大人たちがそう言ってたから?」
全てを見透かしたような、ギャルの余裕ぶった態度にひどく腹が立った。
「違う! そんなんじゃ――」
「いいえ、何も違わない! あんたは他人の評価を
「……違う、違う! オイラは――!」
「じゃあ、あんたはこの子が捕まった時――何をしてた、尻尾を巻いて逃げてたよね?」
「それは、みんなを逃がすために先陣を切って!」
「先陣を切って? 笑わせるな! あんたは仲間のことなんか考えていなかった、自分が逃げたかったから――結局は自分のことが可愛かっただけなんだ!」
「うるさい……っ!」
「その証拠に、あんたはこの子が捕まったことにさえ、長い間気がつかなかった。仲間がちゃんとついて来ているかどうか確かめるために、後ろを振り返ろうともしなかった!」
「黙れ! 卑怯者ぉ……!」
「いいか、よく聞きなさい! 卑怯なのは私じゃなくて、紛れもない――」
「――あんた自信よ!!」
そのとき、オイラの中の大切な何かが壊れた気がした。頭を
「うわぁぁぁぁあああ!!」
喉が痛むほどに叫びながら、拳を力いっぱい握り締め、ギャルめがけて走り出した。対するギャルは、左手で人質をかばいながら、開いた右手を突き出して構える。
オイラは自分でも驚ろくほどの速さでギャルに詰め寄り、あと数歩で拳が届く!
そのとき――ギャルは心底いらだった様子で、大声を張り上げた!
「ったく! 男はこれだから、少しは自分の弱さを――認めなさいよぉぉお!!」
その声に
「容赦ねぇぇぇぇぇええええ!!」
鳥の気持ちを疑似体験すること数秒、オイラは広場の
「ぐはっ!」と声にもならない音が漏れ、地面へとうつ伏せで倒れこむ。
もやがかかった意識の中で、ぼやけるギャルの姿を
「おまえは……自分の強さを知れ……」
直後、オイラは意識を手放した――。
※
目が覚めると、周囲にはたくさんの人が集まっていた。
仲間たち、解放された女子、あの執事に魔法使い。そして少し離れたところにいる――ギャル。
ついでに、壁にひびを入れられた民家のおばさん。いや……
「大丈夫?」
「大丈夫ですか、リーダー?」
「大丈夫かい?」
「自業自得だね?」
みな口々に優しい言葉をかけてくれる……あれ? 魔術師、心配してなくない?
まぁ、それはさておき。オイラは立ち上がると、噴水に腰掛けているギャルのもとへと歩み寄る。
「なに?」そっけなく聞いてくるギャル。オイラはゆっくりと――頭を下げた。
「ごめんなさい……」
「ほう」ギャルはおもむろに立ち上がる。
そのとき、視界の端で、ギャルが手を挙げるのが見えた。
マズイ、ゲンコツが飛んでくる! そう思ってとっさに目を閉じたのだが……。
なぜか――頭を撫でられた。
「え?」驚き呆れるオイラの頭をワシャワシャと撫で回し、さらに、満面の笑みであのギャルはこんなことを言ってくるじゃないか。
「偉い、偉い! 素直に謝れるなんて、あんた良い男じゃん!」
それを聞いて――なんだか泣きそうになってしまった。
なんだよ、なんでだよ。さっきまで敵だったのに……。そんなことするなんて――反則だろ……。
じんわりと心に何かが染み渡るのを感じた。優しさとも愛とも知れない何かが、それでも確かに心を溶かした。
強くて、そのうえ心まで広いだと……?
おのれ、ギャルめ! お前、なんて――なんてかっこいいんだ!!
気づけばオイラは、こんなことを叫んでいた。
「あ、あの――弟子にしてください!!」
「弟子!? まぁ……いいよ!」
にこやかに微笑みかけるギャル――改め『師匠』。魔法をかけられたように、自然とオイラも笑顔になった。
そこへ、わめきながら走り寄ってくる有機生命体が一人……。
「おい! なに勝手に弟子とってんだよ!?」
「はい? いいでしょ、私の弟子なんだから私の勝手でしょ?」
「お前が俺の弟子で、
「まぁ……、いいじゃん☆」
「よくないわ!!」
こうして、オイラはギャルの弟子になった。
強くて、そして正しい男に必ずなるんだ!
ただ……。
あの魔術師の弟子には、なりたくない――!
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