第5話 約束<上>(*^-^)ノ
俺の名前はザクマ・ジュン。
ある日ひょんなことから異世界に転移してしまって以降、血のにじむような努力を積み重ねて魔術師になり、師範にまで上り詰めた。
初めての教え子は同じ異世界人、そしてギャルだった。
彼女は高い魔法適正を持ち、この国の存亡を左右する重要な人物。
しかし、困ったことが一つある。
彼女は俺に恨みを持っていて――まったく授業を聞いてくれない……(泣)。
※
カバンを池に投げ落とされてから、はや二週間。毎日欠かさず彼女の豪邸に通い詰め、授業をしようと試みるも、いまだまともに授業ができていない。
というかずいぶんとひどい目にあった。
ドアを叩いても一向に出てこないと思ったら突然上空から水をかけられたり。
玄関の前に身動きがとれないほど狭い落とし穴が掘ってあったり。
どこから連れてきたのかわからない牙むき出しの番犬に追い回されたり。
大事にしていたペンダントを盗まれ、翌日花壇に埋められているのを発見したり……ってただのいじめじゃん!
タンスという名の鈍器が頭上に飛来したり……って命奪いにきてるよね!?
しかし、俺はあきらめない……こうなったらもはや意地だ。絶対に授業を受けさせてやる!
そう決意した俺は
……当然、彼女は爆睡しているわけだが……。
※
「おはよう! 今日こそまじめに受けてもらうからなー!」
今日もいつも通りの時刻に、豪邸のドアを叩いた。
「おはようございます。どうぞお入りください」
ドアが開いて、執事の男の子が出てきた。俺は礼を言うと中へ入り、彼女の部屋がある二階へと向かう。
一方的ではあるが、最近授業をできるようになったのは、あの執事くんが協力してくれたからだ。
彼は主人に『開けるな』なと念を押されたドアをあっさりと開け、何の躊躇いもなく俺を招き入れてくれる。
執事としては失格だが、大変ありがたい。内通者というやつだ。時には裏口から入れてくれる。
部屋に入り、俺が挨拶をしても、彼女は机に突っ伏したまま。こちらをちらりとも見ようとしない。いつもどおりの光景である。
彼女は絶対に最後まで顔をあげない。
しかし、もうそんなことはさせない。今日は――秘策を用意しているのだ。
「それでは、今日も授業を始める……その前に少し提案がある」
言った瞬間、彼女の耳がぴくっと動いた。
俺は少しじらすように間を取ってから、あえて平然とした態度で提案する。
「今度、街へ買い物に行かないか――?」
※
私の名前は
日本でふつうに高校へ通い、ギャル仲間と毎日を楽しく過ごしていたんだけど、ある日突然異世界に召還されなんか流れ的に『国』を救うことになった。
正直勉強は嫌いだけど、それなりに魔術を学ぶ気持ちはあった。それなのにやってきた家庭教師は勝手に大事な金髪を黒く染め直して……!
ほんとにあいつだけには教わりたくない。このまま授業を妨害し続け、あの愚王が見かねて別の教師を連れてくるのを待つ――それが私の計画、私なりの復讐。
今日も初めから終わりまでずっと寝たふりを続けてやる!ざまあみろ!
そう決めていたんだけど、あいつは部屋に入ってくるとすぐに――こんなことを言い出した。
「今度、街へ買い物に行かないか――?」
は? と私は驚いたけど、すぐさま笑いがこみ上げてきた。
え? 何それ? デートのお誘いwww? ないないないないwww。
しかし、話を聞いてみるとどうやらそういうことではないらしい。
「服を買いに行こう」
服? 物で釣ろうって
「その制服しかないんだろ?」
うっ……確かに最近それが悩みの種だ。召還されたのは平日の放課後だったから、服はそのとき着ていたこの制服しかない状態……。
「女子高生なんだから、もっとおしゃれしたいんじゃないのか? それに一着だけじゃふべんだろぉ?」
いや、まあ……そうだけど。なんか心を言い当てられてるみたいで腹が立つ。
制服は2、3日に一回の洗濯でもいいけど、下着を毎日洗って着回すのは正直手間がかかって大変。あの執事くんに頼んで買ってきてもらうのは……いろんな理由で無理だし……。
それに……そりゃ、おしゃれだってしたいよ?
しかし私はこんな甘言に惑わされるわけにはいかない。あいつの策略なんかに誰がまんまとはまってやるもんですか!
何も言わず、寝たふりをし続ける。
私の意志は固いんだから!
「ちなみに――もちろん俺のおごりだ」
おごり!? ほんとに!? ……いや、だめだ! 惑わされるな私!
でも、おごり……なんて魅惑的な響きなの……!
一瞬にして固い意志の
「あれ? 返事がないってことは――行かないってことだな?」
「……っ!」
おのれ、家庭教師めぇぇぇぇ!!
なんて卑怯な! こんな非人道的なことを教師が言っていいの!?
おもはず体がびくっと動いてしまった。
「あーあ、残念だなー。どんな高い服でも買ってやろうと思ってたのになー」
「……………………(汗)!」
正直――めちゃくちゃ行きたい! おしゃれがしたい、服がほしい! 他人のお金で服買いたい!!
それでも私は、ここまできて今さら『行きたい』だなんて言えない。
寝たふりをさらに継続していると、ついにあいつは人間が言ってはならない、禁じられたセリフを口走った。
「じゃあ――俺、今日は帰るわ」
うわぁぁぁぁぁぁ!! なんてひどいの、自分であれだけ誘っておいて最後にそれを言えてしまうなんて正気の沙汰じゃないわ! もうあなたは人間じゃあない!
あいつは残念がる下手な芝居をうちながら、荷物をまとめてドアへと歩き出した(音で判断)。
そして、ドアの前で立ち止まると、最後のチャンスと言わんばかりにこう言うのだった。
「いいのか? ほんとに帰っちゃうぞ? 言っておくがもう二度とこんなおいしい話はないぞ、なぜなら俺は――ドケチだからなぁ!!」
なんで? どうしてそんなに得意げなの? ドケチは美徳じゃないんだよ!?
あいつはついにドアノブに手をかけ、ゆっくりと回し始める。キィィという独特の音が部屋の中に響いた。
どうする、どうするの私!? 言っちゃう? 買い物に行きたいって言っちゃうの!?
いいや、だめだよ! そんなことしたらあいつの思うつぼよ、あきらめないで!!
天使と悪魔が激しく言い争っても結論は出ない。
あーもう、どうすればいいの!?
迫るタイムリミット、気づけば私は――立ち上がって叫んでいた!
「あーもう! 行きますよ、行けばいいんでしょ!? 行けば!!」
あいつはゆっくりと振り返り、ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。
「おはよう! 今度授業中に居眠りしたら――買い物はナシだからな?」
「くっ……! ほんと最低……!」
私が唇を噛み締めつつ、観念してイスに座り直すと、奴も教卓の前へと戻る。
「よし、それじゃあ改めて――今から授業を始める」
「…………」
「おい、あいさつは?」
「……………………」
「か・い・も・の! 行きたくないのか?」
「……っ! …………よろしくおねがいしますっ!」
「よろしい。じゃあ教科書の5ページ……」
こうして、まんまと奴の策略に負けた私はこの日――まともに授業を受けてしまった……。
あれ? でもよく考えたら、二人で買い物って…………やっぱありえない!!
※約束<下>につづく。
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