第2話 平たく言えば愚王Σ(゚д゚lll)

 私の名前はジュマペール=ヨーグリーノ九世。


 極西の島国、ケノビバタアシュ国の国王だ。


 現在、我が国はかつてないほどの危機に瀕している。

 他ならぬ私が外交をミスって、全世界を敵に回してしまったのだ……。


 早ければ一ヶ月後にも全世界連合軍がこの国を攻め滅ぼしにやってくる。

 

 しかし自慢じゃないが、うちの軍はわけあって「世界ヘナチョコ軍隊ランキング(非公式)」に11年連続トップで殿堂入りするほど最弱。


 とある青年にクーデターを起こされかけたので、これはマズイと対応を考えた結果、我ながら名案が思いついた。



 そうだ――異世界人を召喚すれば良いじゃん♪



 ということで、さっそく国中くにじゅうの優秀な魔術師をなかば強引に連れてこようとしたら――返り討ちにあった。

 仕方なく、自分のへそくりをはたいて給料を支払い、召喚の儀をおこなってもらうことに成功したのだった。

 嗚呼ああ、魔術師長が「三日ほどかかるよ」と言うので「えぇー、そんなにかかるのー」と言ったらシンプルにつえで殴られたほっぺたがまだ腫れてる。



 何だかんだあって色々と苦労したが、ようやく今――異世界人の召喚に成功した! 

 

 長い金髪、鋭く尖りキラキラと輝く爪。


 間違いない――本物のギャルだ!


 ※


 説明しよう。

 異世界人にもランクというものがあって、単純な力の強さや格闘力、地頭の良さなどで総合的に判断される。


 ハズレは『引きこもりのニート』。『武闘派サラリーマン』辺りがアタリなのだが、ギャルだけは特別。



 なんと、あの『高学歴ヤンキー』を上回る大当たりなのだ!


 

 ゆえに、その場(王宮の儀礼用大広間)にいた全ての者が歓喜にわいた。

 玉座に座り、一段高い所から召喚の様子を見下ろしていた私は思はず立ち上がり、魔術師たちは青春ドラマのように肩を抱き合って互いの頑張りをたたえ、召使いたちは勝手にシャンパンを開け始めた。

 普段は笑いもしない議会の連中でさえ腹踊りをしたほどだ……気持ち悪っ!


 私は階段を下り、……ちょうど同じ顔をしていたギャル様に話しかける。


「ようこそお越しくださいましたギャル様!」

「誰だよ? 話しかけるな」

「……。いきなりお呼びたてして大変申し訳ありません」

「ほんと迷惑。あー、気分悪い」

「……あはは、まぁそう言わず――」

「いや、逆の立場だったらどうなの? 嫌じゃないの?」

「ごもっともです……」

「人間としてどうかしてるよね? ねぇ!?」


「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!」


「国王! どうか土下座はお止めください!」


 騎士長が叫びながら走り寄ってきて、私を隠すように腕を広げる。

 そこへ、議会の連中からヤジが飛んできた。


『出た! 国王の豆腐メンタル!』


「だ、誰だ? 今バカにしたのは!?」

『プライドだけは高いってほんとサイテーだよな』

『ギャル様、騙されちゃいけません! 国王の土下座は風船より軽いんです!』

「誰が中身空っぽじゃぁぁぁぁぁ!!」

『いや、誰も言ってないから! その被害妄想強いところも嫌い!』

「よし分かった……もう許さない! 今日こそ議会全員クビにしてやるぅぅぅ!」

『やれるもんならやってみろやぁぁぁぁああ!』



 ※乱闘中につき、しばらくお待ちください※



「ゴホン。今回お呼びしたのには深い事情がございまして――」

「いや、鼻血出てますけど……」

「……ご心配なく。実はこの国、大変危ない状態でして、一ヶ月後には全世界連合軍に攻め滅ぼされてしまうのです」

『お前のせいでなー』

「……ゴホン。そこで異世界から召喚した人物に救ってもらおうということになったのです」

『お前が首を差し出せば一件落着だぞー』

「ちょ、騎士長! そこのアンチつまみ出して!?」


   ※

 

「要するに、この国を救って頂きたいのです」

「……いや、そんなこと言われても。わたしただの人間なんですけど」


怪訝そう……いや、それを通り越して「何言ってんだこいつ」と言わんばかりの表情を浮かべるギャル様。

しかし、私は「ふふ、」と意味ありげに微笑むと、驚愕の事実を告げた。



「大丈夫です、だってあなたは魔法が使えるのですから!」



「えぇぇぇ!? わたし魔法使えたの!?」

予想どうりの大絶叫を上げる彼女。その黒い瞳に初めて光が宿った。


「えぇ、そうですとも、古来よりギャルは最高レベルの魔法適正を持っているのです!」

「え、じゃあじゃあ、早速今から敵国に突撃かまして、ちゃちゃっと支配下に治めたらわたしは元の世界に帰れるんだよね?」

前のめりになって聞いてくるギャル様だったが、対照的に私の声音は一段下がる。


「…………いえ、それは無理です」


「どういうこと?」

「確かにあなたは高い魔法適正を持っています。でも力の使い方を知らない」

「……じゃあ、どうすればいいの?」


「これからあなたには優秀な魔術教師のもとでみっちりと勉強していただきます」


 そう言った途端、ギャル様はあからさまに嫌な顔をなされた。


「えぇー、勉強しなきゃいけないのー?」

「いや、当たり前でしょう? 何事も基礎が大切なのですよ」


 ギャル様はしばらく「うーん」と渋い顔で唸ったかと思うと、一言で結論を述べた。



「じゃあ――私、帰るね」



 私は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていたと思う。


「え? 帰る? な、何で?」

「だって――勉強したくないし?」

「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ! あなたは最強の素質を持っているんですよ?」

「うん、さっき聞いた」

「ちゃんと勉強さえすれば、必ず最強の魔法使いになれるんですよ!?」

「かもね」

「一体どこに断る理由があるというんですか!?」


「だから――めんどくさいんだって」



「は?」



「もう、勉強とかしたくないのっ」

「…………」

「それに、素質があるからって上手くいくとは限らないし」

「いや、でも――」

「どうせ――私には無理だし」

「そんなことはありません!」



「それに、どうせ異世界に来たんなら、楽して生きたいじゃん?」

「……………………」



 国家存亡がかかっているという重圧、上手くいかないことに対する焦り。

 何よりその――なめ切った態度に、私は堪忍袋の緒が切れた。

 そしてつい、心の声を口に出してしまった……!



「おのれ、ギャルめぇぇぇぇぇぇえええ!!」


 

 ※

 

 叫んだあとでふと我にかえり、やらかしたことを自覚する。

 

 周囲の人間がみな顔を引きつらせ、生まれた静寂の中でただ一人、


「ふーん、良いんだ? そんなこと言っちゃって」


 ギャル様だけが笑っていた――とても悪い顔で……。


「あれれ? 私が頼みのつな、なんだよねぇ?」

「いえ、さっきのはその……」

「私が救世主なんだよね?」

「言葉の『あや』といいますか、あの……」

「救世主に向かってそんなこと言っちゃっていいのかなぁ?」

「……………………っ(汗)」


 私には今、試練が課されている。

 元はといえば、私が外交に失敗したのが原因。あの時、酔っ払って大騒ぎなどしなければ……!

 私の行動に、この国の存亡が託されているのだ。


 もう、失敗は許されない。


 私は覚悟を決め――その場に



「申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁあああ!!」



「ちょ、国王! だから土下座はいけませんてばぁぁぁ!!」



 そのあと、説得するまでに三時間かかった……(泣)。

 

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