おのれ、ギャルめ!!

茶摘 裕綽

第1話 パントマイム(゚Д゚)ノ

 わたしの名前は夏梅蒼衣なつめあおい

 

 花の高校二年生、生粋のギャル、超絶かわいい。

 放課後、今日もギャル仲間と楽しさ求めて街に繰り出した。


「ねぇ、次どこいく?」

「カラオケ!」

「どこの?」

「駅前のラウ○ドワン!」


 毎日が楽しい……はずだったんだけど、最近マンネリな生活に退屈しちゃってる自分がいる。

 というか、本当は一人が好きなのに。

 この子たちといるとお金もかかるし……いろいろしんどい。


 歩きながらふと、洋服店のやたら長いショーウィンドウに目が止まった。おめかししたマネキンの手前に、しょぼくれたわたしの姿が映っている。

 ほらね、やっぱり今日も笑ってない。

 ……わたし、どうして金髪なんかにしちゃったんだっけ?

 秋の風は無駄に短いスカートを揺らしつつ、わたしの体温を奪っていく。


「蒼衣はどこ行きたい?」


 金色のポニーテイルを揺らして振り返ったのは親友の智花ともか。この子とだけは幼稚園の頃からの付き合いだ。


「わたしは別にどこでもいいよ、皆で決めて?」


 突然の質問に困惑しつつ、精一杯の作り笑いで応じた。

 しかし。


 「またそれか……」彼女はため息混じりにそう呟いて、足を止めた。

 「え……?」私もドキっとして立ち止まる。

 彼女の冷ややかな目には、全て見透かされているような気がした。


「……最近そればっかりだね。私たちといても楽しくない?」

「そんなこと……ないけど……」

「それならいいんだけど。何か、この頃元気ない感じだったからさ……私たちが負担になってたら嫌だなって思って」


 悲しげに笑った。その姿にわたしの胸は締め付けられ、罪悪感がこみ上げた。


「ごめん、そんな風に思わせちゃって。負担なんかじゃない。ちゃんと……大切な仲間だと思ってるから」

「……そっか、よし! じゃあ、カラオケいこー!」

「うん!」


 沈んだ空気を変えようと、彼女の声はやたら明るい。お手本みたいな笑顔を残して、一足先にみんなの元へと駆けていった。


 わたしが間違ってた。親友にあんなこと言わせるなんて。もやもやした気持ちを、まわりのせいにして逃げてたんだ。わたしのこと、大切に思ってくれてるのに……。


 よし、決めた。今を全力で楽しもう、智花たちとならきっと出来るから。


 腐りかけていた心を入れ替え、清々しい気分で仲間の元へ駆け寄っていく。


「痛ぁ!」


 そのとき――何かに頭をぶつけた。


 わけも分からないまま、強烈な痛みにおでこを押さえてしゃがみ込んだ。

 そして、顔を上げたとき――とんでもない物を見てしまった。


 

 地面に――紫色の魔法陣が描かれていた。



 驚いて前を見ると、薄紫の光がカーテンのようにわたしの周りを囲っている。光のくせにガラスみたく硬い。

 完全に閉じこめられていた。


「みんなぁぁぁ! たすけてぇぇぇぇ!」


 混乱した頭で懸命に助けを求めた。

 幸いにも声は届いたらしく、光の向こうでみんなの振り向く姿が見える。


「たすけてぇぇぇぇぇ!!」

 ガン、ガンと音をたてて光の壁を叩く。拳に鈍い痛みが走った。


 異変に気づき、すぐさま走り寄って来てくれた。押し寄せる安心感に涙があふれる。――しかし次の瞬間、智花の発した言葉によって、絶望に突き落とされることになるのだった。



「パントマイム? 超うまいんだけど」



「え……、見えてないの?」


 最悪な予想は的中していたようで、誰一人わたしを心配する者はいない。

 どころか、みんな満面の笑みを浮かべながらスマホを向けてくる。


「何それ!? 蒼衣、そんな特技あったの?」

「マジでウケるんだけど! ていうか何で今?」

「映える! イ○スタに投稿しよう! いや、ティック○ックかな!?」



 終わった。



 率直にそう思った。


 何か少しずつわたしの体は地面に沈み始めていた。

 光の壁を叩けば叩くほど、泣き叫べば叫ぶほど、みんなは面白がって腹を抱える。


 気づけば周りには人だかりが出来ていた。

 もう腰辺りまで沈んでいる。


 地面を押して這い上がろうとしても、より強い力で引きずり込まれた。


 光の壁に映ったわたしは――なぜかひきつった笑みを浮かべていた。


「何それ!? どうやって沈んでんの?」

「マジック? パントマイムっていうかマジック?」

「世界めざせるよ!」


 マジックなわけないだろ! 世界めざさねーよ!

 そう叫ぼうとしても、既に沈んだ口は開かない。

 くそっ!せめてネットに上げるのはやめてぇぇぇ!


 わたしは血走った目で彼女たちを睨みつけ、


 おのれ、ギャルめぇぇぇぇぇぇ!!! 


 そう、心で叫びながらアスファルトに沈んだ――。




 そして、目覚めるとそこは……異世界だった。


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