旅立ちは唐突にやってくるもので…
一体何が……?よくみるとエルの背中から胸の前まで枝のようなものが通り抜けている。振り返ると大きな木…これがトレントなんだろう。つまりこいつかエルに攻撃をしたというわけで。
「…このっ」
このとき俺は恐怖すら感じないほど必死だった。エルの胸に突き刺さってる枝を掴みトレント側を解体ナイフで切り落とした。思ったより細かったのであっさり切れて助かる。この後のことはあまり覚えていない。必死に考え俺はトレントを倒した。目の前には消し炭になっているものが転がっているところを見ると何か燃えるようなことをしたことだけがわかった。
「くっ…ふ…はぁ……」
「エル!」
そうだトレントのことよりも早くエルをなんとかしなと!!ええーと回復する魔法か何かを…出来るだけたくさん回復できるやつ!
【フルヒーリング】
体力を全快まで回復するが、無くなった血液や傷、欠損などは修復しない。
だめだこれじゃあ!!傷口を塞いだ上で体力を回復できないと!
【エクストラヒーリング】
体力、欠損、状態異常などをすべて回復する。命のないものには効果がない。
これだ!
「エクストラヒーリング!」
一瞬だけエルが光りに包まれたがその光がすぐに消えた。エルの傷口は塞がっていない…
「エクストラヒーリング!エクストラヒーリング!」
連続で掛けてみるがもう光ることはなかった…エルは回復しない。自然と涙が溢れてきた。どうして…安全確認もしないで進み始めたんだ…折角使えるスキルを覚えてもこれじゃあ意味がない…!
「エクストラ…」
エルは死んでしまったんだ…後悔してももうどうしようもない…この世界には死者を生き返らせるすべはないのだから。…いや、まてよ。………ないなら作ればいい!
【リザレクション】
死者の魂を肉体に呼び戻す。肉体の損傷や病魔などは直せない。死後10分以上たつと成功率が下がり、3回失敗すると肉体が耐えられず土に還る。※習得するのに神力を1消費します。
これだと…どうなんだ?生き返るけどまた苦しむってことか??再び命を落とす前に回復をすれば間に合うのかもだけど…それに時間制限つきだ。今エルが死んでどのくらいたった?俺はどれだけ悩んでいた?
「…くっ」
これもだめかもしれない…もっと他にないのか!創造魔法っお前が頼りだ!!エルを確実にこの世界に取り戻す方法を───!
【リインカネーション】
死者の魂と肉体を再びこの世界へ呼び戻す。死後3日以内効果を発動。使用対象者は
───っこれならいけるんじゃないか?やけに神力の消費が多い気がするが知ったことじゃない。初めてこの世界に来て出会い、俺に世話をやく…そんなエルを見捨てることなんて無理だ!!
「───リインカネーション!!」
その言葉を口にすると目の前が眩しく光りだした。どうやらエルと俺が光に包まれているようだ。どのように回復されているのか眩しくて見えないが、なぜか自分の体に違和感を感じていた。
◇
エルを背中に背負いサイファンへ戻る。結局あれからエルは目を覚まさず狩りは再開されなかった。村の中を歩く間俺達2人視線が突き刺さっていたが、気にしていても仕方がない。このままエルの家に真っ直ぐ向かうしかないのだ。
「ヘンリックいるか?」
家の入り口から中を覗きこみエルの兄ヘンリックが戻ってきているか確認をする。俺達とは別にヘンリックも狩りへ出ており、朝家を出たときにはすでにいなかったのだ。少しすると奥からヘンリックが顔をだしこちらへ向かって来た。
「ソウ…か。む、……ベッド使うか?」
背中に背負っているエルに気がついたヘンリックがベッドを使うように勧めてくれる。言葉は少ないが彼は彼なりに気を使ってくれているようだ。俺が使わせてもらっている部屋のベッドにエルを寝かせるとヘンリックが何かいいたげにこちらに視線を向けた。
「エルは…一緒じゃないのか?」
ヘンリックのその言葉に俺は悲しくなった。きっと今酷い顔をしているに違いない…そんな顔をした俺をヘンリックが気に掛けてくれる。
「ソウ、お前も休んだほうがいい」
「いや…エルのことを説明しないといけないんだ」
そう話す俺の視線がベッドに横になっているエル───見た目がずいぶん幼い子供に見える人物に向いていると、ヘンリックは俺の視線の先にいる子供をじっと見つめた。
「エル…なのか?なぜ…」
魂も肉体もたしかにエルのものだ、だから面影はある。彼女はこの世界でエルフとしてすごしていた情報を失っい、それにあわせ人間の子供として生まれ変わってしまったのだ。
「はい…彼女は元エルゥーリカで、今はただのエルです」
俺は事のいきさつをヘンリックに説明した。2人で森へ狩りに行きトレントに殺されてしまったこと、その後俺のスキルで生き返らせたらエルフでは無くなってしまったことを話す。この説明をしている間ヘンリックは目を閉じじっと聞いてくれた。その目が開くとエルの頬に触れ少し悲しげな顔をする。
「もう、妹じゃないのだな」
少しの間2人だけにしよう…俺はその部屋を出て朝食事をしたテーブルのとこで椅子に腰掛けた。
疲れていたのか俺は机に伏せ眠っていたらしく気がついたら寝ていたみたいだ。肩に毛布が掛けられている。きっとヘンリックが掛けてくれたのだろう。
「起きたか」
俺が寝ていた間ヘンリックは待っていてくれたようだ。すっと湯気の立ち上るカップを差し出してくれた。それをありがたく受け取り飲み下す。ほんのり果物の甘みを感じて心が落ち着く。
「…エルは、死んだことにする」
「えっ?」
突然のヘンリックの言葉に俺は驚く。多少変わってしまったがエルは生きている。なのにエルは死んだことにするというのだ。そんなことを言われれば驚くのは当たり前だろう。
「もう、エルフじゃない。」
「でも…」
「ソウのスキル…聞いたことが無い。説明不可」
「あ…」
たしかにあのスキルはこの世界に存在しないスキルだ。俺にもそれを他の人に証明するすべはない。ただヘンリックが俺の話を理解してくれただけだ…エルの存在を信じてくれただけだ…
「そうですね…でもそれじゃあエルの所在はどうすればいいんだ?」
この世界に紛れ込んだ俺のことはどうでもいいが、元からこの世界にいたエルが死んだ扱いになると行き場がなくなる。目の前にいるのにいない存在として扱われるのだ。じゃあこの小さなエルは一体これからどうすればいいのかと言う話になる。
「無理だ。人間とエルフの成長が違う。周りに隠せない…ソウ、お前が連れて行ってくれ」
「……!!」
変だな……俺はいつからこんな涙もろくなってしまったんだろうか。こらえようとしたがだめで後から後から涙がこぼれてきた。
「俺のせいで…すみませんっ」
「ソウは信用できる、と精霊達が。だから…いい」
「…っ」
エルフなりの慰め方なんだろう…ヘンリックが気を使ってくれている。頭をポンポンと軽く叩かれた。
「ところで、トレントはどうした?」
「え…?えーと…多分燃えました??」
「燃えた?」
「多分」
「…そうかなら安心だ」
なんか変なことを言っただろうか…不安になって涙がひいた。
その夜ヘンリックさんと話した結果、明日この町を出て行く行商人の馬車に乗せてもらえるように頼んでくれることになった。エルが森で話してくれたたまにくる行商人の1人だろう。行商人の扱っている商品とかを見る機会はなかったのは残念だが、その馬車に乗せてもらえるなら話をすることもできるだろうからそれでよしとしておこう。
眠っているエルはそのまま朝になっても起きることはなく────…ヘンリックさんに別れを告げた。もう2度と会えないわけではない。エルに説明出来るようになったらこのことを話しここに連れてこようと思う。
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