創造魔法が便利すぎる

「ふぅ~ん…こんな便利なものもあるのねー」


 横から覗きこんでいるエルからふんわりといい香りがする…気がする!やばい…これはちょっと緊張するっさりげなく視線を反対方向へずらす。そういえば女の人と親以外でこんなに近づいたことなんてなかったよ!


「ねえちょっと…この赤いのが魔物とかよね。で、私達はどれなのかしら?」


 そんな俺の気持ちなんてお構いなしにエルは質問をしてくる。


「聞いてる?ほら見てこの赤いのが1つだけすごい勢いで移動してるの!もしかしなくても私達ってこの緑のとこ??」

「え…あ!」


 エルに言われてあわてて確認をするとその赤い点はもうすでにすぐ後ろまで来ていた。魔物の接近に気がついたエルは矢を弓に番え構える。勢いよく矢を3発連続で射るとすぐ後ろに迫っていた熊っぽい魔物の肩、喉、目に刺さった。エルの弓の腕はかなりいいらしい。


「あー1つ外れた!」


 それでもどうやら1つ狙ったところを外れたらしく手を握り締め悔しがっている。俺から見たらすごいと思うんだけどな~


「…とそれより止めささないとっ」


 ちなみにこの熊あまりかわいくないから俺は気にならない。思う存分やってくれ。負傷した熊の動きが鈍くなりあっさりと胸に矢を射ることに成功し止めを刺した。重量感のある音を立て熊が倒れる音は迫力がある。それに感心して眺めていると、


「う~ん…これは面倒ね~」


 とエルがなにやら考え込んでいる。このとき俺達は油断してたんだと思う。移動の早かった赤い点の主が倒れたことによって安心しきっていた。この熊は割りと遠くから走ってきていた…つまり俺達を見つけて走ってきたわけではないと言うことに気がついていなかったんだ。


「同じように血抜きして解体とかするんじゃないのか?」

「そうなんだけど肉がおいしくないからいらないの。硬いしね。だからこの獲物の欲しいところは前後の足と皮だけなのよ」


 チラリとこちらをエルが見ている。なんですか、つまり…俺に皮を剥げと?足を切り落とせと?たしかに丸ごと持ち帰るとか無理がある。軽量化を計るためにもいる分だけにして後は埋めるなり焼くなりするのがいいのだろうが…


「何事も練習よー?」


 と言うわけで半分無理やり解体の練習をやらされることになった。この作業で何度もはいたことは言うまでもない。その熊を解体したために袋の容量が厳しくなってしまった。俺の袋の中の半分は薬草とかが入っているし、エルのほうはうさぎと熊の皮、あと熊からうさぎよりも2回りほど大きな魔石を手に入れた。


 解体済みの熊をエルが処理をしようとしている。そういえば燃やすか埋めるしかないけどエルはどうやるんだろうか。その様子を眺めていると両手を前にだしたエルが何か口にしだした。


「火の精霊よ、風の精霊よ、我の頼みを聞き入れこの命を天に返せ」


 エルの両手の先がキラキラと光っている。その手の先から風が、火が出て熊を包み燃え尽き灰が天に上っていく。すごく不思議な現象だった。うん、マニュアルの中にある知識だね。エルフは精霊に力を借り、魔法を使う。もちろんその代価に魔力をさしだしている。


「よしっと…じゃあ食事作りましょうか」


 昨日もそうだったのだが昼前に狩りをしてそのまま現地で食事を作り食べる。その残りが夜と朝の材料となる。なので帰るまでにもう1匹くらい何か狩らないと食料が不足してきてしまう。昼の済ませた後もう人狩りする予定だそうな。


「食事って昨日食べたのと同じだよね…?」

「んーそうね。私料理得意じゃないし塩入れて煮るか焼くかくらいしか出来ないわよ?」


 そういえばエルの称号に危険な料理人とかいうのがついていた気がする…それ以外のことをしようとすると危険なものが出来るってことか?どう危険なのか気になるところだが、食事はどうせならおいしく食べたい。


「あのー…俺が食事作ってもいいかな?」

「別にいいわよ?材料は何がいるかな…」

「あー大丈夫何とかなるから…そうだまだうさぎ解体してなかったよな?エルはうさぎの解体でもやっててよ」

「そう?じゃあお願いするわね」


 さて、エルが解体をしてる間にさっさと作りますか。ちなみに料理は作ったことないんだけどね。まああれですよ創作魔法。これなら魔力さえあれば基本なんでも作れる。もちろん料理だって簡単に違いない。


 塩、胡椒…あーというか何作るか決めてなかった。魔法で作り出した塩と胡椒はこの世界で扱われている袋に入った状態で出来た。思ったより一袋が多いけどまあよく使うものだし問題ないだろう。で、肝心の料理だが…よく考えたら材料だしても俺が作れるはずもなかったんだよね。


 つまり、完成品で作らなければいけないということだ。ってことは何でも作れちゃうんじゃね?たとえば…シチュー、はいきたこれっ鍋に入った状態で作れた!味見をするとちょっと涙が出てきた。母親の作る食べなれた味に感動。これもこの世界に対応した鍋に入っている。シチューとくればやっぱパンもほしいよね。ふわふわの白いロールパンみたいなヤツがいいな。これは籠に入った状態で作成された。もちろんこれも味見…む、予想よりは固いパンになった。これ以上柔らかくするには神力が要るみたいだ。まあそこまでするまでもないかな、まずいわけではないし。


 さて、エルに声をかけ器に盛るか。


「エー…ル?」


 うさぎの解体をしていたはずのエルがその作業がすでに終わっていたのかすぐ近くで俺の行動を眺めていた。別に創造魔法を内緒にしているわけではないが、どうやらこのスキル自体が存在していないものらしく、俺を含めた神候補3人と神しかもっていない。となると神がどうとかの説明が面倒になるので必然とわざわざ教えるべきではないという扱いになる。そしてじーっとエルがこっちを見ているわけなんだが…


「今それ取り出したよね。作ってないよね?というかすぐ食べられるものがあるなら言ってくれればよかったのに」


 どうやらスキルで作ったとは思われなかったみたいだ。エルが器によそってくれ2人で食事を始める。やっぱ塩だけの煮込み料理は食べてられないよな。


「ねえ…もしかしなくてもソウって空間収納アイテムボックスかなにかもってるわよね。」

「…んあ?」

「じゃないと鍋とか持ち歩けないし…もしかしてマジックバック貸さなくてもよかった?」


 …なんか勘違いしてくれてるみたいだしそれに乗っかっておくのがよさそうだな。ところでアイテムボックスってなんだ…あーうん。なるほど、他の空間に物をしまえるんだね。容量はまちまち…と。


「あーうん。でも容量がそれほどないから借りられて助かったよ?」


 ということにしておく。それにしてもアイテムボックスは便利そうだから後で作っておこう。そうすれば嘘じゃなくなるし丁度いいね。


「あとね…このシチュー白いの…初めて見る。そしておいしい!パンもふわふわでもう感動しかないよ!」


 どうやら気に入ってくれたようだ俺の母の味。それから気が済むだけ2人でシチューを食べた…んだけど何かおかしい。


「気のせいかな…シチュー減ってない気がするよ?後パンもさっきからずっと同じ数に見える…ね?」

「…そういう仕様です」

「そっか…じゃあもう食べられないから私は終わりにするね」


 ……うん。何で減らないんだろう?そういえば完成したものの鑑定はしてなかったな。



【無限鍋】

 魔法道具マジックアイテムで中身はホワイトシチュー。魔力の供給が切れない限り無くなる事はない。


【無限籠】

 魔法道具マジックアイテムで中身は白パン。魔力の供給が切れない限り無くなる事はない。



 おかしいな…こんなものを作るつもりじゃなかったんだが、まあ…便利だからいいか。気にしても何も変わらないので思考を放棄し、鍋などを作ったばかりのアイテムボックスにしまう。


「さて、後1,2匹は仕留めないとね」


 ははは、また解体をやらされる生き物じゃないといいなーあとうさぎも出来たらやめてもらえると嬉しいんだけど、こればっかりは何が来るか運にまかせるしかない。立ち上がったエルの少し後をついて進む。


「…ひぐっ!?」


 そのエルが変な声を上げ足を止めた。


「あ…かはっ」


 そして吐血…エルの視線は本人の胸のあたりにある。俺もそこへ目をやると赤い染みが広がり始めていた。



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