マニュアルの使い方

 食事が終わった後エルは使った道具などを片付けている。その間に俺はこれからのことを考えることにする。いまいち状況が理解出来ていないのだが、ひとまずこの世界のことを知りたいという気持ちだけは何故かある。それにもともと住んでいたところではこんなふうに獲物を捕らえて食べるということはなかった。その違いに感心したり納得したりする。昔は俺のいた世界も同じことをしていたことを考えると、たぶんこの世界はまだ発展が未発達といったところなんだろう。


 ところで神だとなのっていた幼女から渡されたものなのだが…おかしい、手元にない。あのマニュアルだと言っていたものを見てみたかったんだが周辺に落ちていることもない。一応エルに聞いてみたが「なにそれ?」と言われただけで知らないようだ。ないのなら仕方がない。マニュアルがないとすると今から何をするべきか…


「ねえ、私村に帰るけどソウはどうするの?」


 片づけを終えたエルが心配そうにこちらを見ている。あれか…どう見ても狩りとかをする服装じゃないし武器も持っていないから森に放置することを気にしているのだろう。


「エルの住んでる村はここの近くなのか?」

「そうね…ここからなら一番近いかな森を西から抜けて最初にある…」

「ああサイファンか」

「あら、小さな村なのに知ってるとか来たことあるの?」

「いや…ない…が……」


 知らないはずなのに何故か知っている…なんだこれは。不思議な感覚に少しだけ気持ち悪さを感じる。でもわかったのはそこに『サイファン』という名前の村があるという情報だけだ。目の前にいるのはその村の1人でエルゥーリカ50歳エルフ…じっとエルを見ていたらいろんな情報が流れてきた。



個体名:エルゥーリカ

 年齢:50歳

 性別:女性

 種族:エルフ

 職業:狩人 精霊交信

 称号:世話好き 凄腕ハンター 危険な料理人


 体力:1250/1250

 魔力:980/1000

 :

 :

 :

 身長:172cm



 …ん?



 体重:55kg

 視力:良

 聴力:良

 胸囲:78cm

 腰囲:49cm

 :

 :



 ちょーっとまった!!情報多すぎ。こら…ちょっと止まれ!というかなんなんだっ…と思ったが無駄だった結局もうしばらくエルについての情報が流れ続けた。


「どうしたの?なんか具合悪そうね」

「いや…ちょっと」


 両手で頭を抱える。一度にこんなに情報が流れると流石に頭が痛い。どうせなら現在の自分の情報のほうが知りたかったよ。いやまてよ…もしかしたら自分のことも見れるんじゃないか…?そう思ったら即実行、左手の手のひらを眺め情報を引き出そうと考えて見る。



個体名:乃木蒼

 年齢:16歳

 性別:男性

 種族:人間 (半神)

 職業:学生 (神見習い)

 称号:かわいいもの好き 


 体力:1000/1000 (99999999/99999999)

 魔力:980/1000 (99999979/99999999)

 (神力:4)


 筋力:100 (99999)

防御力:100 (99999)

生命力:100 (99999)

俊敏性:100 (99999)

器用さ:100 (99999)

  運:100 (99999)


スキル:鑑定 創造魔法


 身長:165cm

 体重:52kg

 視力:良

 聴力:良

 胸囲:75cm

 腰囲:63cm

 腹囲:70cm

  足:25cm

 :

 :

 :


 …あれ?ちょっとふらふらする。そうださっきエルの情報だけでも頭が痛かったのに、さらに自分の情報を続けて知ったもんだから…あれかキャパオーバー……





 と思ったんだけど…感覚があるな。両手をそれぞれニギニギと指を動かし確認をする。うん、意識はちゃんとあるみたいだ。


「お前…またきたのか」


 声がしたほうに顔を向けると神だと名乗っていた幼女が立っていた。


「……あれ?」

「めんどくさいヤツだな…折角マニュアルを渡したのに意味がないじゃないか」

「あっそうそのマニュアル。なんか無くなったみたいで…」

「はあ?無くなるわけがないだろう…ほら」


 幼女が俺の胸に触れると体の中から透明な板が出てきた。


「…な?」


 まじだ…というか体の中にあるとか聞いてないしどうなってるんだ?まあ神とかが出てくる時点で普通ではなかったんだよな…


「基本的なことはマニュアルに、それ以外は鑑定を使って調べればよい。ちょっと考えるだけでマニュアルから情報を引き出せておるだろう?」

「そ…その使い方だけは教えて欲しかった…!」

「ふむ…どれ他の2人を覗いて見るか」


 幼女が手を前にかざすと四角い板状のものが2つ現れた。俺のほうからだと裏面になるのか何も見えない。


「おお、こやつはすでに生活基盤を整えつつあるのう。こっちは…うむ、問題なくマニュアルを使えておる」


 そ~と横から回り込んで覗き込もうとしたら殴られた…痛い。板状のものをその間に消されてしまって見れなかった残念。


「わかったらお前もとっとと戻れっ……ふぅ、やっぱなんとなくおまけで追加した候補は無駄だったかの」

「は…?今なん……」


 パチンと幼女が指を鳴らすと視界の先は見慣れないどこかの部屋の中に変わっていた。


「おまけがどうとか聞こえた気がするんだが…というかここどこだよ」


 体を起こすとどうやらベッドのような場所に寝ていたことがわかった。ただ知っているベッドとは違いかなり硬い。素材はわからないが布の中に何かを入れ、それを台の上に乗せた物らしい。まあ詳しく知りたいわけではないので別にいいだろう。それよりもここがどこなのかの方が問題だ。


 再び部屋を見渡す。すぐ傍に外が見える小さな扉が1つ、片側が開いているので見ることが出来る。これは窓…なのかな?ガラスは使われていないようだ。そしてベッドをはさんだ反対側に壁が一部布になっている場所がある。窓にガラスがないところをみるとこっちはドアと言うことだろうか。ということはあの布の先には廊下などの別の空間があるに違いない。


 ベッドからおりその布をめくり奥を覗き込むと少し大きめなテーブルのところにいすに座った男の人がいた。誰だろう?


「あ、気がついた?まさかあのまま目を覚まさないとはおもわなかったよ~」


 少し視線を動かすと声の主、エルが立っていた。


「ほら座って丁度朝ごはん出来たところだから」


 よく見るとエルの手に持っている器から湯気が出ていた。テーブルの上にもいくつか料理が並んでいる。勧められるままひとまずテーブルの開いた場所に腰を下ろした。正面に座っている男の人が気になるが下手に鑑定するとまた情報量が多くて意識を失うかもしれないので、今は鑑定しないようにしよう。


「…ヘンリックだ」


 ちらりと視線を向けた男の人が口を開いた。どうやら名前を名乗ったらしい。


「あー蒼です。えーと…ここはどこでしょう??」

「あははっそうよね目を覚ましたら知らない場所だものおどろくのは当たり前ね。それよりも2度も倒れたけど体弱いの?もしそうなら森に入るのはやめたほうがいいわよ」


 食事をしながら会話をするとこれまでのことを教えてくれた。どうやらあれからまた意識を失った俺をエルじゃあ運べなくてヘンリックさんを呼んだらしい。どうやって呼んだのかは知らないがまあなにかしら呼ぶ方法があったんだろう。そしてヘンリックさんはエルの兄でここはサイファンのエルとヘンリックの家だ。


「…で、結局ソウはこれからどうするつもりなの」

「そうだな…」

「決まるまでここにいるといい」

「兄さん?」

「それまで仕事でも手伝っていればいい」

「どうする?兄さんはこういってるけど…」

「じゃあお願いします…?」


 まだなにも決めてない俺はこうしてしばらくエルの家に世話になることになった。


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