第12話

鍋から盛り上がるほどに入ったおでんは強火のガスコンロの熱で湯気を吹き上げている。ママはなぜか強火だと味が染みると思っているようで、限界まで強火で炊いたあと火を止める。弱火にするのはガスの無駄らしくその極端な思考は俺たちにも受け継がれている。あんずは信者仲間だった麻子と話をしなくなり、最近は倉橋と一緒にいるのをよく見かける。倉橋だって!?この世の友人たちでさえ避けるヤリマンの倉橋と。中一の時には前田が倉橋と先輩とで4Pをしたと大声で話していたし、怪しげなおっさんの車に乗っていたという噂もよく聞く。隣の席の小林に聞くと、援交してるんだよ倉橋は、と前のめりになって話しだした。Twitterで募集してるらしいけど俺らの相手はしてくれねえんだよ三万だってよ。と言いながら指を三本立ててヘラっと笑った。おでんの卵を箸で半分に切ろうとしては何度も滑って逃げられているあんずちゃんよ。なぜ君はそんなに極端なのかね。もっと普通のお友達じゃ駄目なのかね。まあ今夜にでもあんずに聞いてみるかと思って俺も卵を二つに割った。ぷりっと一撃で真っ二つよ。


あんずが風呂から上がったので俺も風呂場へ行くと、洗濯物の山の一番上にあんずのブラとパンツが畳んで置いてあった。ほらほら使っていいよと主張する下着を前に、あまりのアホらしさに笑ってしまう。あんちゃん、そもそもブラはオナニーで使えねえよと思いながら、畳まれたパンツを拡げるとクロッチに白濁した体液が光っていて、明らかに直前に付いたものだった。気がつけば舌を出して濁った液体を舐めていた。冷めた体液を舌の上で転がし、口の中全体に広げると、鼻腔にふわっと香りが抜けて、ほんの少しのアンモニア臭とあんずの体臭が脳内にぶわっと満ちた。脳内の匂いはビッグバンで拡張し続ける宇宙のように止まることなくいつまでも広がり続ける。あんちゃん好き。これが愛情なのか性欲なのかぐちゃぐちゃで何もわからない。ただ、いままでぼんやりとしていた感情にくっきりと輪郭がついた。あんちゃんとセックスがしたい。犯したい。あんずの全部が欲しい。欲望は形となって脳の底が痺れる。痛いほどに固くなったちんこを握りながらシャワーを浴びる。あんずのパンツを顔に擦り付けると濃いいメスの匂いがして、脳からちんこに射精しろ射精しろと電流が流れる。素直なちんこは何度もひくひくと痙攣しながら精液を吐き出しあまりの快感に立っていられずに膝をついた。頭から熱めのシャワーを浴びながら、あんずとセックスがしたいと口に出すと、曖昧に誤魔化してきた欲情がくっきりと形になり、すとんと腹の中に収まった。


朝起きると少し頭がダルくて柔道の授業がある日なのもあって学校に行く気にならなかった。ママに風邪引いたかもと言いながら体温計を出して熱を測るふりをしながら体温計を擦る。三回目でちょうどいい微熱でピピッと止まったのでママに見せて、学校休むわ、と言ってベッドで二度寝する。


制服に着替えたあんずが部屋に入ってきて「仮病はダメよきょうちゃん」と笑いながら髪を撫でられる。「最近、倉橋と仲良しなんでしょ?いい子なの?」と聞くと、「あれは悪い子ね、でもいい子よ」と曖昧な返事をして、舌を絡ませるキスをしてきた。「でも援交してるんでしょ?あんちゃんは巻き込まれないでね」と少し不安になって顔をしかめると、あんちゃんは「バカだな〜、そんなことするわけないでしょ〜」と屈託なく笑って部屋から出ていった。


その日はベッドで本を読んだり昼寝したりとサボりを堪能した。夕方にあんずがなかなか帰ってこないとママが騒ぎ学校に電話しようかしらと言い出したので「あんちゃんは今日図書委員で何か作業があるって言ってたよ」とフォローする。あんずが家に帰ってきたのは集会に出発する十分前で「早く着替えなさいよ」と催促するママに「あたしも風邪引いたかも、しんどいから寝てたいの」と軽やかに嘘をつくと部屋着に着替えてしまった。言い合う時間もないと思ったのかママは軽くため息をつくと、無言のパパを連れて集会へ車で出ていった。車が遠ざかるのを待ってリビングへ行くと、テレビの電源を入れる。うちのテレビは二十インチぐらしかない小さなテレビで、よくこんな小さなテレビを見つけてきたもんだと感心する。しかも普段はレースがフリフリした謎の手作りカバーがかかっていて、存在して申し訳ありませんとテレビが言っているようだった。普段見れないくだらないバラエティを見ている間もあんずは部屋にこもっていて出てこなかった。テレビにも飽きたのでソファに座ったままあんずに「先に風呂はいっちゃうよー」と声をかけると「いいよー」と明るい声で返事が遠くから聞こえてくる。熱めの湯に浸かると何もしなかった一日のせいか何も考えることがなく、湯の中で手をゆらゆら揺らしながら水の抵抗で遊ぶ。いきなり、風呂のドアを開けてあんずが入ってきた。ニヤニヤした顔で「どう?」と聞くあんずの顔に違和感がある。頬がピンク色に染まって、妙に目を見てしまう。なんだろう、妙に可愛い。くるぶし近くまであるパイル地の薄いピンクのしましまの部屋着を着て、普段下ろしっぱなしの髪は頭の上で玉ねぎのようにくくられている。「なんか妙に可愛いけど何で?」と尋ねると、湯船の俺の目線までしゃがんでにやにやしながら「なんでだろうねえ」と笑う。その笑った唇もいつもより血色がよくてテカテカ光る。茶色の目は普段よりも大きく見えて、いつもより引き込まれる。ああ、なるほど「もしかして化粧?」と答えると、あんちゃんはそれはもう自慢げに「どうよ!」と胸を張った。あんちゃん可愛い。化粧した顔もすごくいいけど、その仕草とか上がったテンションが可愛い。「倉橋さんにもらったの?」と聞くと軽くうなずいて「服濡れちゃった。私もお風呂入るね」と言って一旦脱衣所へ出ていく。浴室の摺りガラスのドアにあんずが服を脱いでいくシルエットが見える。最後にあんずとお風呂に入ったのは小三の頃で、服を脱ぎ捨てた勢いのまま風呂場に入ってきたあんちゃんはこっちを気にすることなく身体を洗い始める。止める間もなく入ってきたあんちゃんの身体は、小さく膨らんだ乳房に、艶々と光を照り返す張りのある肌が膨らんだり引っ込んだりと思ったよりでこぼこしている。ボディソープの白い泡がピンク色の肌にまだらに張り付いては流れ落ちていく。俺は勃起したものを隠すために、あぐらを止めて膝を抱えて湯船に座り直した。


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