第10話
「体育祭で杏子と恭次の信仰が試され、立派に神への信仰と忠節を示すことができた事を感謝します。アーメン」体育祭の夜、食卓に並んだのは大量の唐揚げで、食事の前のお祈りをするママを見て、子供を褒めるのにも神様を通さないと褒めれないなんて駄目よねと思いながら、隣に座るあんずを見ると目をつむって俯いていた。あんちゃんは横から見ても綺麗で、おでこから鼻筋がすーっと通り、目には長いまつげがバサバサに付いている。顎から首筋のラインも無駄なく、胸も無駄な脂肪がないのが残念だなあと思っているとお祈りが終わった。はい、ザーメン。唐揚げはいつ食べても美味いね、あんちゃん。
昨日のキスは何だったのかと思うほどあんずはいつも通りで、朝起きて構えていた俺は肩の力が少し抜けた。体育祭も終わり日常が戻ってきて、週に三回の集会に行き、週末は伝道活動で街を徘徊してはあちこちの仏教徒にご迷惑をかけ、週に一度の日曜夜にはママが手配した教団の若手によるマンツーマンの勉強会が始まった。二十代半ばの彼は平畑くんと名乗って、最近わざわざ北海道から布教のためにやってきた開拓者だった。これから毎週来ては聖書の解説書を一緒に学ぶらしく、ママは嬉しそうにコーヒーを用意していた。平畑くんを無視するわけにも行かず適当に相槌を打ちながら時間が過ぎるのを耐え、早くあんずの部屋で寝転びたかった。「来週はさあ亀有にあるつけ麺屋に行こう。奢るよ。お母さんには俺から言っておくし。豚骨ベースに魚粉と鶏が入ったスープがまさに旨味の爆弾なんだよ。あんずちゃんも行きたいかな?聞いてみて?」一方的に喋る平畑くんにわかりましたと答えて玄関から送り出す。
あんずは部屋で勉強をしていて、「平畑っちが来週は亀有でつけ麺奢ってくれるらしいよ俺たちに」と言うと「平畑さんてちょっと目が怖いよね」と少し嫌がった。キスの日からあんずは少し変わって学校の勉強はするけど、教義の勉強はしなくなった。あんずと俺は自然と手を繋ぐことが多くなって、今も話しかけながらあんずの左手を握っている。ねえあんちゃん、あの時計を買うお金はどこから来たの?手をもみもみしているとあんずは「くすぐったいでしょ」と微笑みながら振り向いた。あぁ可愛い世界一可愛よあんちゃん。くるっと笑顔で振り向いたあんちゃんは、第二次性徴期のせいか細いのに女性的な胸から腰のラインがくっきりしてきて触りたくて仕方ない。腰に手をまわして抱きしめてみたいよあんちゃん。愛してる、世界で一番可愛くて穢れを知らないあんちゃんは皮膚から俺専用のマイナスイオンを放出していて近くにいるだけで心に空いたぽっかりした穴が満たされる。繋いだ左手を握り返され、立ち上がったあんずは手をつないだままでベッドに倒れ込む。俺も手を引かれるままにあんずの横に寝転ぶと、うつ伏せのあんずは「きょうちゃん、わたしのパンツで何してんの?」と言った。瞬間、逃げようとしたがあんずが手を握る力は強くてベッドから離れられない。うつ伏せのあんずは伏せていた顔をゆっくりと俺に向けて片目で俺を見ている。
言い訳を必死で考えながら口を開こうとしたら「いいよ。きょうちゃん好きにしていいよ」とあんずは言う。目が漆黒の黒で瞳孔が全開になっている。口元は少し上がっていて微笑しているあんちゃんは顔が半分しか見えないのに、全部わかった上で言っているんだよという顔をしていた。そして舌をちろっと出して悪戯がバレた子供のように笑うと、俺に手を伸ばす。あんちゃんの手からは操り人形の糸が俺に繋がっていて、仰向けになったあんずの身体の上に俺は操られる。あんちゃんの手は俺の首に絡まって、後頭部を持つと自分の口に誘導する。むにっとした感触がきて、あんちゃん愛してる俺だけのあんちゃんだよとか思っていると、あんずの舌が俺の唇を舐めながら唇を割って入ろうとする。驚いて至近距離のあんずの目を見ると、瞳孔が全開の瞳は瞬きもせずに俺を見つめていた。あんちゃんこれがディープキスってやつかよ、とか俺たちは血がつながってるんだよとか一瞬よぎるけど、舌が絡まる快感にすべて流れ去る。口の周りが二人のよだれでベタベタになってもただあんちゃんの唾液をもっと食べたくて舌を絡ます。溶けそうな 快感の渦のなかで夢中で唾液を舐めていると突然あんずが笑い出す。「きょうちゃん犬みたい」とケラケラと笑うあんずは少し壊れていて、愛おしい。二人で抱き合って、俺もつられて笑って二人でケラケラと笑っていた。確かに犬だね俺は。あんちゃんの忠犬だよ。世界に二人だけ。あんちゃんと犬の世界だよ。そう思うとまた心が満ちて唇の快感がじんわりと全身に広がった。股間が妙にぬるぬるしていて、バンツに手を入れるといつの間にか射精していた。「あんちゃん、俺はお風呂に入ってくるからパンツ頂戴」と言うとあんずはかかとで俺の尻を蹴って死んでしまえと言って笑った。
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