勘違い
@harutuki_1108
勘違い
青山寧々は青山財閥のご令嬢であった。
そのため、この16年間ずっと甘やかされながら生きてきた
お嬢様が嫌がることからは遠ざけられ、周りの人間もお嬢様にはいちだんと気を使っていた。
親も自分の娘には尽くしていたので、自分の娘は幸せだろうと思っていた。
娘自身も、おさないころから賞を取ると「おめでとう」と言われて嬉しかった。
でも、中学校で2年生に上がったくらいだろうか、書道のコンクールで、金賞を取った時、お母さんは何も言ってくれなかった
次はバレエで金賞を取った時には「おめでとう」とは言ってもらった、けど、心がこもっていなかった。
その次も、その次も、賞を取った時は、気持ちのこもっていない「おめでとう」だけだった。
別に褒め称えて欲しい訳では無い、でも、何か、嫌だった。
その嫌悪感は日を増すごとに大きくなっていき、去年の暮れには親や使用人に反抗するようになっていった。
そして現在──5月30日(木)20時36分、リビング
少し父に反抗しただけで父は怒った、今は説教の最中という訳だ。
「何故、そんな口を親に聞いたんだ?」
優しい口調で言っているんだろうが、聞く耳を持っていないので内容は耳を通り過ぎていく
「聞いてるんだ、答えなさい」
ああ、どうやら私に聞いているらしい、適当にあしらおう。
わたしは静かに、コクリと頷いた。
父はとうとう怒ったらしく、顔を真っ赤にして言った。
「お前なんて──出てけ!」
ああ、そうか、そう出るか、素直に言うことを聞いておこう
「分かりました」
私はそう言い、静かに立ちあがり玄関へと向かった。
父は1人でブツブツと文句を言っているようだったが、母は心配そうにこっちを見ているようだ、私は皮肉のようにこう呟いた
「いつもは私の事なんてどうでもいいクセに──」
そう言ったが、母には聞こえなかったらしい、まだ心配そうに、こっちを見ていた。
カッコつけて外に出た所まではいいが、考え無しに出たので、今日の夜、どこで過ごそうかも考えていなかった。
ふと思った。
「海…見たいな、」
何故そう思ったのかは分からない。
でも、なぜか、見たいと思った。
幸い、海は歩いて30分とかからない所にあるので、見たいと思った瞬間、既に足は動いていた。
30分ほどかけて来た海は、当然といえば当然だが泳いでいる人は居なかった。
そんな誰も居ない海岸に鳴り響く砂浜に波が打ち寄せる音は、母への怒りや、嫌悪感が嘘みたいに晴れていくような、そんな心地よい音だった。
そうして海に耳を傾けながら目を瞑っていると、右側から何かの足音が聞こえた。
散歩でもしに来たのだろうかなどと考えていると足音が目の前で止まり、わたしはびっくりして目を開いた。
すると、そこには、暖かそうな格好をしたおじいさんが居た。
おじいさんはこちらを向くと同時に少し厳しい目をして聞いてきた
「汝よ」
「わ、私ですか?」
「うむ、」
「何でしょうか……?」
「汝はちと間違えておる」
「間違い……ですか?」
「うむ、汝は人の心が簡単に読めてると思っているようだが、汝が考えているほど人間は馬鹿ではない、人の感情というものは、何重にも包み隠されておるのじゃよ、汝には簡単に読めぬわい」
「は、はあ」
「よう分からんかったようじゃの、まあ良い、何となくで覚えていれば十分だろう」
「は、はい分かりました…」
よく分からなかったが、何故だか、役に立つような気がした
「粋なことを言うてすまぬのう、これが私の性※での」
「いえ、そんな」
私は何故か俯いてしまった
「では、またここに来れば会えるかものう、それではここでおいとまさせて頂くとするか」
「では、お気をつけて」
慌てて顔を上げるも、周りにはおじいさんは何処にもいなかった。
波の音で晴れたはずの気持ちはまた、蘇ってきたけど、他の気持ちが晴れた気がした。
私は家に戻った。
帰った時、父も母も少しは怒ったが、かえってきたのが嬉しかったのか、少しだけ涙ぐんでいた。
後日、私は母に聞いた。
「ねえ、私が金賞とったときどうおもった?」
率直に聞いた、母は驚いた顔をしたが、やがて穏やかになって言った。
「勿論、心から嬉しかったわ、でも、無理してるんじゃないかとおもったわね」
私は、大きな勘違いをしていたみたいだ。
母が気持ちのこもっていない言葉を言っていたのは、気持ちが無かったんじゃない、心配してくれてたんだと。
ここで私はおじいさんの言葉を思い出した。
「うむ、汝は人の心が簡単に読めてると思っているようだが、汝が考えているほど人間は馬鹿ではない、人の感情というものは、何重にも包み隠されておるのじゃよ、汝には簡単に読めぬわい」
この意味がようやく分かった気がした。
私は勇気をふり絞って言った。
「お母さん、ありがとう」と
勘違い @harutuki_1108
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