例えばこんな最終話

亜未田久志

最終話


「ねぇ! どうして!? 戻って来てレオ!」

 特殊な文様の描かれた簡素なドレスに身を纏った少女が叫んだ。

「ローズ、こうしないとダメなんだ」

 鎧に身を包む少年はほほ笑む。

 

 彼らは今、光の神殿にいた。

 なにもかもが輝き、いや、光で形作られている。

 その最奥、光の柱の前。

 二人は光の階段の前と上で対峙していた。


 階段は中ほどで分かたれている。

 レオがやったのだ。

「他に方法があるはずよ!」

「事態は一刻を争う、魔王の仕掛けた災厄が起動する前に、光の神殿を開放しなきゃならない」

「じゃあ、私がやるわ! 貴方がやる必要なんてない!」

「ローズ、お前にそんな事させられるかよ」

「ひどいわ、いつもは『そんな事も出来ないのか?』なんて言ってくるくせに……こんな時ばっかり……」

「……悪いな」


 少年は光の柱に剣を突き立てる。

「おおおおおおおっ!」

 光が溢れる、だがまだ足りない。

 レオの体が光へと沈み込んでいく。

「……レオ ああ神様、どうして私は見ている事しか出来ないの」

 そこでローズは一つの光明を見出した。


「はぁ……はぁ……くそっ、なかなか開放出来ねぇ!」

「どうやら苦労しているみたいだねえ」

「お前はトイフェル!? どうしてテメエがここに!?」

「彼女に呼ばれたのさ」

 トイフェルとは、かつては魔王軍に属していた幹部だが、後に裏切り、魔王の首を狙い、自ら魔王になる事を目論むも、返り討ちに遭ったところを、レオ一行に救われた者だった。

「何しに来やがった」

「苦戦しているみたいだからね、お手伝いさ」

「裏切ってばっかのお前がか?」

 トイフェルはレオ一行に救われた後も、何度か魔王軍に戻らんと、レオの首を狙った事があった。

「それもいいけど、もう魔王軍も壊滅してしまったしね、僕も改心したのさ、だからせめてもの恩返しをと思ってね、君が嫌ならやらないけど――」

「トイフェル!」

 ローズが叫ぶ。

 彼女はトイフェルを魔法で瓶の中に封印した過去がある。

「おお怖い怖い。彼女を怒らせたくないんだ。ここは一緒にやろうじゃないか」

「……お互い、アイツには勝てないな」

「魔王でさえ勝てなかったんだからね」


「全力で行くぞ!」

 剣に改めて力を込める。

 光輝き、それは眩しさを増していく。

「オーケー、こっちも全力だ」

 暗き闇、それが黒さを増していき、トイフェルの手の中に収束していく。


「「せーのっ!」」


 放たれた光と闇。


 光の柱は崩壊する。

 あふれ出る光は軌道を変える。

 川のように流れていくその先には魔王城がある。

「さあ捕まって! 光に流されたら終わりだぞ!」

 翼を生やしたトイフェルが、宙から手を差し伸べてくる。

「まさか最後にお前の手を掴む事になるとはな」

「最後じゃないだろう? むしろ最後にしないために彼女が僕を読んだんだから」

 空を飛び、光の神殿を抜ける。

 すぐ外にいたのは祈るように蹲るローズだ。


「おーい」

「レオ! トイフェル!」

「ちゃんと役割は果たしたよお姫様、んじゃ僕はこれで」

 レオを地面に下ろして、また飛び立とうとするトイフェル。

「もう行くのか?」

「なんだいその寂しそうな顔は」

 トイフェルが嗤う。

「テメエこの野郎……!」

「もう二人喧嘩しないで! それより見て!」

 ローズが指をさす。

 光の奔流の先。

 魔王城から溢れようとしていた闇、混沌が光にぶつかり浄化されていく。

「終わったな、これで全部」

 レオが感慨深げに呟く。

 そこでトイフェルは口角を吊り上げる。

「まだ僕がいる事を、忘れてもらっちゃ困るなあ」

「何!?」

「トイフェル、貴方また!」

 飛び立つトイフェル。

「僕はしばらく力を溜める事にするよ! そしたらまた会おう! 今度は敵同士だろうけどね!」

 追いつかれないように飛び去っていく。

「はぁ、ローズ、お前とんでもないのを開放しちまったな」

「しょうがないじゃない、レオを光の奔流に飲み込ませないためにはああするしかなかったのよ」

 二人は顔を見合わせる。

 新たな危機が現れたというのに、二人は顔を見合わせて、笑った。

 これからどうなるかは分からない。

 だけど二人なら、きっと。

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