少年達は密談した

 ニーナの部屋を出ても、ザラムの足は止まらなかった。見えないくせに、迷いなくどんどん歩いていく。彼は廊下の距離も、ちゃんと覚えていた。




 ロムとアドルは、小走りで彼を追いかけた。

 ザラムは明らかにイラついていた。気持ちが同じ事が嬉しくて、つい声が弾んだ。


「ザラムも怒ってるの?」

「当然。あいつらだけ、隠し事」

「ザラムは、僕達と同じ子供扱いされた事に、怒ってるんじゃないの?」


 アドルの声も、どこか楽しそうだった。


「それも、ある」

「そういやそうだよね! ザラムは何歳なの? トールと同じくらい? いや、大人っぽいから、もう少し……」

「45」

「……えっ」

「父上と同じ……? やけに、現実的な……おじさん並の歳だね……」

「どうでもいい。問題、トールとアイラス」


 ザラムが立ち止まって何かを呟いた。ふわっと空気が揺れて、一瞬だけ光の膜に包まれた。


「何? 今の、魔法?」

「遮断した」

「僕達の会話が、盗み聞きされないって事?」

「そう」

「何の内緒話?」


 なんだかワクワクしてきて、ザラムを急かした。彼は腕組みして、少し悩むような素振りを見せた。

 どう言うか悩んでいるのか、それとも何を言うべきか悩んでいるのか。




 しばらくして、彼はポツリと言った。


「トール、念話、届かない」

「……え? なんで? トールは、魔法が使えなくなってるの?」


 いや、そんなはずない。今朝は彼の転移魔法で戻ってきたのだから。


「ロム。とりあえず、ザラムの話を聞こうよ」


 アドルにたしなめられ、ロムは口をつぐんだ。どうもこの二人と居ると、必要以上に自分が幼く感じてしまう。




「アイラスとは、話してる……はず。他、届かない。ニーナも、無理」

「どうして……」

「念話、嘘、付けない。トール、隠す、苦手」

「秘密を漏らさないために、念話を断ったの? 今ザラムが使った魔法みたいに?」


 無言で頷くザラムに、ロムは信じられない思いがした。そうまでして隠したい秘密とは、一体何なんだろう。




 今までのトールは、性格もあってか何でも正直に話してくれた。

 彼に裏切られたような、アイラスという少女に盗られたような気持ちになり、何だか面白くなかった。




 アドルが、何か思いついたように小さく声をあげた。


「ねえ。念話が通じないと、居場所がわからないんじゃ……?」

「そう。転移されても、追えない」

「今、逃げられたら……ヤバイね」

「逃げる? アドルは、二人がどこかへ行っちゃうと思ってるの?」

「勘、だけどね……。ニーナ様が見張りたいのも、その辺の事じゃないかな」

「多分、そう。消したの、逃げるため、かも」

「……え?」


 消したって、どういう意味なんだろう。あの二人のどちらかが、何かを消したんだろうか。

 ザラムの短い言葉は、まるで謎かけのようだった。




「しばらく、大丈夫。……と、思う」

「なんで?」

「……絵、だね?」


 アドルが考えながら、ゆっくりと言った。ロムには話が見えない。


「絵って……レヴィの部屋にあったっていう?」

「そう。あの絵、完成していないらしいよ。今も彼女、レヴィの部屋で続きを描いているみたい。少なくとも絵が完成するまでは、逃げないと思うよ」

「完成までに、目的、知りたい。ロム、頼む」

「は? 俺?」

「そうだね。トールが話してくれるとしたら、ロムだけだと思うよ。彼、あの子から離れようとしないけど、何とか呼び出して聞いてみてよ」

「えー……自信無いよ……」

「無くても、やれ」

「わ、わかったよ……」

「じゃ、魔法、解く。今の話……」

「わかってるよ。僕達三人だけの秘密だね?」


 アドルがニヤリと笑うと、ザラムも同じように笑った。ロムだけは、苦笑するしかなかった。






 ザラムが魔法を解き、三人はレヴィの部屋に向かって歩き始めた。今はジョージが、トール達を見てくれているはずだった。




 ところが、そのジョージが廊下の向こうから走ってきた。顔には焦りが見える。まさか、と思った。


「どうしたんですか!?」

「申し訳ありません……! 少々目を離した隙に、トール様とあのお嬢様が、姿を消されました……!」

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