第3話 ある意味長所
「他人の更生……?しかも女の子の?」
自分の耳を信じられずにオウム返しに尋ねてしまう。
その頼みは余りに俺という人間から掛け離れている。
何故なら客観的に見て、この学校で更生されるべき人間はこの俺を置いて他にはいないだろうから。
成績そこそこ、授業態度最悪。
昨年の遅刻欠席合わせて50。
秋元先生独自調査の
「絶対に受け持ちたくない生徒ランキング」
2年連続3位。
不良とまではいかないが不真面目な生徒として、悪名高いのだった。
「俺に出来ることなんて何も無いぞ」
思いついたとしても精々一緒にボランティアに参加するくらいである。
それなら俺も更生できるし万々歳!
んなわけあるか、です。
「君は自分の長所を何だと理解している?」
脈絡の無い質問に戸惑いながらも、
俺は胸を張って答えた。
「特に無い!」
「……自己評価が高いのも褒められたことではないが、低すぎるのもなぁ」
そう言って頭痛でもしたようにこめかみを抑える秋元先生。
先生は分からないなら私が教えてやろう、と無い胸を張った。
「君の長所は"逃げられること"だ」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
そんなの長所でも何でもない。
胡乱な俺の視線に気付き、秋元先生はふっと目尻を和らげる。
「人にはやらなくてはいけない事と、やってもやらなくてもどちらでもいいがやった方が好ましい事の2つが存在する。
普通の人間は後者すら引き受ける。例えどれだけやりたくなくても空気を読んでな。
だが君は敢えて空気を読まない。
我を通して、そこから逃げる事ができる。
それは立派な長所だよ」
「そう……なのか?」
「ああ。
そういったものから逃げられない人間から見れば君の行動は憧憬すら抱かせるかもな」
そう言われると悪い気はしない。
頬を掻きながら、話の流れで思いついた憶測を語る。
「つまり逃げ方を教えろってことか?」
「そこまでしてくれるなら有難い。
が、"世の中こんなにちゃらんぽらんに生きててもいいんだ"と思わせてくれるだけでいい」
あれ??
やっぱり褒められてないのでは???
「まあ、礼はきちんとする」
「デートでもしてくれるのか?」
いつもの様に茶化す。
こうでもしないと、照れ臭くてかなわない。
「……君がそれを望むなら……考えてやらんことも無いぞ……」
珍しく顔を真っ赤にしながらぽそぽそ喋る秋元先生に、こちらもなんだか気まずくなる。
……可愛な、この先生。
「あー、そういや肝心の事を聞き忘れてた」
空気を変える様に俺は呟く。
「その女の子はどこにいんの?」
「ん?ああ、言ってなかったか」
秋元先生は自身の背後の扉をとんとんと指で叩く。
「___保健室(ここ)だよ」
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