#068:高邁かっ(あるいは、超耗対決ハッタリくんVSブラフマンの巻)


 第2ピリオド。


 対戦相手、印南インナミから、これ以上ないほどのガンをつけられつつの、自分の手番を待つのがつらい。と言うか何なん、このとってつけたような修羅場感は。無理やり盛り上げようとしてない? ……モリアーゲミスト。意味不明な単語が突如、私の延髄あたりにもわり浮かぶけど、それは無視した。


「……我が同胞、『チグワ=カ』の『元老ネーム』を持ちし義姉妹を屠った貴様を……今度はこの『イナン=カ』が葬り去ってやるッ!!」


 その発言の一割も理解できない異次元言語で怒鳴りかけてくる印南なわけだけど、何だろう、対局以前の疲労感を禁じ得ない。


 元老内の分裂騒動に意図せず巻き込まれた私なわけだが、出来うることならば、このまま……息を殺したような状態のまま、やり過ごしたい気持ちでいっぱいだ。


 けど、先ほどの第一ピリオドで「元老No.4」を一撃で沈めた私には結構な注目が集まっているようで、いざ対局手番となった瞬間、観客席から怒号のような歓声が降りかかって来る。


「フフフフフ、フハハハハ!!」


 その中を、完全てめえペースで高らかに笑い続けている印南のメンタルの強さには脱帽だけれど、上目遣いと言うか白目目前みたいなイっちゃってる感じを見るにつけ、ああー、こいつはやばい、出来れば関わり合いたくないという思いが切々と私の頭の中で沸き起こっているわけで。


 だが、やるしかないのよねー、よーしよしよし、何だか開き直り気味の気合いが湧いて来た。印南よぉぉぉぉっ、存分に……来ぉいっ!!


 <先手、印南選手、着手願いますっ!!>


 すっかりおなじみとなった運営、ハツマの声によって戦いのゴングが鳴らされたことが告げられる。うわん、と歓声も私らを包み込むようにして弾ける。


 ぐいい、と凄まじいキマり気味の笑顔で、印南の着手が始まる……っ!!


「……失恋話、略して『シバ神』ッ!!」


 ……いきなりのネタ投下に、さしもの私も真顔に移行してしまう。微妙にその「略して」の元ネタにノスタルジックな何かを感じてしまう私も私なわけで、こいつとはいい酒が飲めそうだが、特に飲みたいとも思わないな、というような支離滅裂な思考に陥りかけ、そもそも「ん」の出どころが分からんわー、と重ね重ねの滅裂感が私に襲い掛かってくるのだけれど、それすら凌駕する怒涛のDEPが突きつけられる。


「『インド人の彼と付き合ってて、カレーを本場風に手で食べて共感を得ようとしたんだけど、利き手が不浄の方だったので、思い切り引かれて、それが元で別れた』」


 うーんうーん、結構すごいのかも。ネタ自体はオーソドックスでありがちではあるんだけれど、前述の通り、我々対局者の身体には常に「嘘発見機」が仕掛けられているわけで、それが作動しないってことは、今述べたことが真実であることとなる。本気か作為なのか分からないし分かりたくもないけれど、とにかくそれを実行したということは真実。なかなか出来ないことだよねー、それって。


 <先手:72,229pt>


 その辺、評価者もよく熟知しているのかも。意外にいい点数。玄人好みの「DEP」を撃ち放つとは……さすがは元老No.5。


 いや感心している場合じゃない。噛ませと見せかけての意外な実力者。私も、かの超絶能力を解き放つしかないわよね。


 脳裡に浮かぶごつい拳銃のイメージ。中心部で真っ二つに割れたその銃身から現れた回転式弾倉シリンダーが、音も無く回り始める。何が出るかな♪みたいな口ずさみを不断の努力で抑え込みつつ、私は「決定」の瞬間を待つ。


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