#066:霧中かっ(あるいは、寂寥忘我ミュートシティ)
歓声がまた、うねるように響いてきている……
第2ピリオドが、またえらい粛々と始まろうとしていた。え何で? びびってんの? みたいな挑発的仕草で、周りを囲む元老の面々や実況のハツマを見やるけど、ことごとく目を逸らされるわけで。
しかし、何というか「元老」各々の間にも、不穏な空気が漂ってはいた。おそらくはあれだ、前戦で私を容易にツブそうとした計画が呆気なく蒸散し、その後の応対をどうするべきか、決めあぐねてでもいるんだろう。なめるんじゃねえっつうの。
こっちの手の内は単純、かつ他の選択肢は心情的にも選べねえだろってくらいの一択だ。
すなわち「2500万」のMAXベット。それが分かった上でさらに何か逡巡が見られるってことは、あれれ~元老内に何か火種が湧いてたりするってことなのかしらぁ。
円周上を巡るそれぞれの何とか装置の上の「対局者」たちは、一様に苦みばしった、黙考するような表情を呈している。何だろう、集団でことに及ぼうって空気はあんましないかな。
なるほど? 相手の足並みが揃わないってんなら、孤立無援の私にも、つけいる隙が出来るってことになる。いやそれ以上か。元々の一匹狼の方が、アドバンテージが掴めるかも知れない。そんな事を余裕の体で考えていた私に、
「……
背後のセコンドボックスから、そんなカワミナミ君の落ち着いた声も掛けられるけど。オッケーオッケー、もっともだわ。振り向いて親指を立てる仕草でそれに応える。さあ、今の「私」はどの「私」なのかしら。
<……それではっ、第二ピリオドに移りたいと思いますっ!! お題は『失恋』っ!! 対局者、BETをお願いします!!>
実況ハツマの声はぶれてはいないけど、まあそのくらいの感情操作はお手の物ってな感じだろう。いや、私はそんなことに集中を割いている場合じゃない。「DEP」よ……っ、我が中で紡いでみせろ……っ!!
すぐさま「25枚」がとこの「百万チップ」を投入口に滑らせた私は、余裕の表情で試しに右隣の「No.15」、先ほど私に粉かけてきたソバージュ元年女(
「……やるじゃないの、アナタ」
なんだ? 割と涼やかな笑みを返された。褐色のバタくさい顔は、さっきケンカ売ってきた時より随分表情は凪いでいて、あれコイツ? と私は逆にちょっとの戦慄を覚える。
まあとにかく「私」は「私」の最善を尽くすまでだ。BETはどうなった? 巨大電光掲示板および手元のディスプレイに結果が映し出される。
<
01:2600:七
02:2600
03:2600
04:××××
05:2600
06:2600:
07:2600
08:2600
09:6100:一
10:3500:五
11:6100:二
12:3500:六
13:1100
14:3700:三
15:3700:四
16:2500
>
てっきり「2600」が並ぶもんだと思ってた(ま、約一名『1100』しかないのは除いて)。いや、上位者は律儀にそうしているみたいだけど、下位メンツは全員限界張りだ。
ちなみにBET額の右隣の漢数字は、現時点での「指名権順」を示しているそうだ。それを見てもやはり下位に集中している……
観客たちの間にも、そして相対する対局者の間にも、先ほどから漂っていた不穏な空気が淀んで圧縮されていくような感じを受ける。これはあれだ、仲間割れ、同士討ち。ふってきたチャンスと思われる局面だが、私は何か嫌な予感も感じていた。
「……どういうコトだ?」
ざわつく会場の雰囲気の中、低いがやけに通る声が響く。私の左隣。軍服金髪、「島=ワシントン大佐」と突拍子もない表示で紹介がなされていた、少女と言って差し支えない風貌の「No.1」が、私のいる方向に向けてガンを飛ばしている……
いや、私の斜め後ろ後方の、「下位組」のやつらに向けて、だった。
「っは!! どういうことも何もないよぉ~? つまりはさぁ、ガチでやろうっていう宣戦布告だったりするわけ、これは。『元老』の運営も結構だけどぉ、そろそろ私らにも見入りが欲しかったりするんだわ、実際」
「大佐」の言葉を受けて、開き直ったかのような、回りくどい言葉選びの女のキンキンに高い声が、びりと周りの空気を震わせた。
「……」
大佐の真正面に、その女は腕組みをして装置に腰かけている。黒い全身スーツに包まれた体は、かわいそうなほどに起伏に乏しかったものの、その上に乗った顔は、整った小顔で、メイクもまつげもばっちり盛り。
あのハツマの、男女問わずを惹きつける面構えとはまたタイプの違った感じではあるものの、妖気のような、何か気になって引き込まれるといった感じの、あらがえなさそうな「力」を持った顔面だ。
そして目を引くのはショートボブの色。金属の質感を持った白っぽい「銀髪」だ。どうやってるのかは分からないけど、おかっぱに近い直毛と思いきや、一本一本が螺旋……蚊取り線香のように、ぐるぐる巻きになっている。
「
その女は、正面の大佐の物凄い眼力を受けながらも、口角をきゅううと上げた多分にわざとらしい笑みで対峙していた。
何か蚊帳の外。私の埒外で、何かが起ころうとしているっ……!!
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