#063:連装かっ(あるいは、サイコチャネラーWAKAKUSA)


「……」


 脳裡に浮かんだ「拳銃」のイメ―ジは、回転式弾倉シリンダーの回転が収まり、再び銃床と銃身が連結したところでかき消えた。


 なるほど? 「あたし」は自分の内面で起こった変化に、あまり戸惑うようなこともせずに受け入れた。この感じは懐かしい……このメンタルの調子が懐かしいというか。


 <残り20秒っ!! 後手、着手を!!>


 実況がそう急かすが、まあ待ってって。妙に落ち着いてる自分を認識する。そして妙に悟っちゃってる自分を、さらに上から俯瞰しているかのような自分をも感じている。


 周囲観客のざわめきは、着手しない私の挙動に対してのことみたいで、私の変化に気付いているのは、斜め左でいい笑顔作ってた知鍬チグワ始め、ぐるりを巡る「ネオ元老」の面々くらいなんじゃないだろうか。私の顔を、薄ら笑いや、見下し面、あるいは勝利確信ドヤ顔で見据えてきていたその表情表情が、今のこの瞬間、少し強張ったように見て取れる。


 さすが元老。この手の「イレギュラーメンタル」への反応速度はただならないわ。ま、だからと言って? どうってことはないのだけれど。紡ごうじゃあないの。あたしのDEPを。


「……大学デビュー初日、『イタリア人とのハーフ』という設定を引っ提げ、濃いブルーグレーのカラコンを、青の素体レンズの外側に油性シルバーのペンで塗って自作して登場し、あやうく失明しかける前に無事に外れてばれて『目から鱗女』という、極めて和風な異名を欲しいままにした」


 ぐおん、と観客のどよめき。私を取り囲む元老の面々の表情も固まる中、私は鼻からふっと短く息を吹き出すと、対局相手の知鍬の顔を余裕の笑みでねめつけてやる。


 <何なんでしょうか……この手筋……わけ判らないけどっ、引き込まれる……>


 実況が端正な顔から表情を抜け落ちさせつつ茫然とそう呟く中、私への評点がディスプレイに表示される。


 <後手:82,620pt>


 再びどおんという野太さが大多数の咆哮のようなどよめきが上がった。


 ……挨拶代わりの地味DEPだったけど、結構刺さってくれたみたいね。きっと、私の佇まいやら、仕草視線口調なんかからも、「本物」を感じ取ってくれちゃったんじゃない?


 今の「あたし」は「18歳」。やっぱり、その時その時しか出せない「空気感」ってあるよねーみたいな、余裕のドヤ笑みで静かにエアロバイク状の装置の上でしなを作ってみたりする。


 世界の中心が自分と信じて疑わなかった、ハイパー黒歴史な私が今、ここに降臨している。この強メンタル……クソDEPですら、映えると見て撃ち放つことができるこのメンタルがあれば……リミットを超えた力を出せる、そんな気がするわ。


 <ち、知鍬選手に『16,391ボルテック』が行使……い、いえ棄権をっ!! 『10,000ボルテック』以上は危険ですっ!!>


 切羽詰まった感のある実況の警告に、


「……さすがはカワミナミが見込んだ人材……だけどね、私にも意地がある。棄権など……するものかっ!! 元老の生きざま、とくと見るがいいっ!!」


 完全にキャラを失った知鍬がそう物凄い怒りの形相で言うけど。大丈夫? ここの電流、ほんとハンパないよ?


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