#062:連綿かっ(あるいは、食らわせろ/オレらも知らない/謎のディリィンジャア)
「……中二の時、かっこいいと思って自分のことを『オレら』って呼んでた」
おっとぉ、まずは軽いジャブか?
だけれど、そこまでの破壊力とは思えない。これが元老の力……? 少し拍子抜けしてしまった私だったが、
「……そして周りには、私って二重人格なんだよねーって触れ回っていて、『私』と『オレら』を使い分けていたりもしていた……そして時折その二つの人格の狭間で揺れ動く『本当の自分』の苦悩と悶絶を表現してみたりもした」
いや、結構なもんだ。前にも説明があったかも知れないが、私ら対局者の身体には高性能の「嘘発見機」が装着されているらしく、「嘘をついた」と判断されるやいなや、体がエビぞるほどの電流が浴びせかけられ、そしてその時点で失格となってしまうそうだ。
その「嘘機」が発動していないところを見ると、知鍬の現在のたまっていることは真実……やばいな。何がやばいって、小出しにしてくるネタの数珠繋ぎ感が、先の期待感を否応煽ってくるわけで、その話術に熟練の技を感じる。これが……元老の……力か……
「……当然、友達と呼べるコは少なかったし、私に話しかけてくれるのも、地味でカースト低いコたちばかりだった」
そら自業でしょーよ。ていうか「カースト」とか言うのやめた方がいいのでは。いやいや、相手のDEPにのめり込んでどうする。しかし小気味よさすら感じさせる知鍬のショートジャブは、私含め、観客、ひいては「評点者」の皆様方にも、少しづつ刺さり始めているように見受けられた。これが……こいつの手筋か。やばい。
「……そんな中、意気投合したカオルちゃんと、『人格が時々入れ代わってしまう』という設定で公然と過ごしていたら、学内で問題になって、親呼ばれてこっぴどく叱られた」
……それは凄いな。凄いアレだ。
「……そこまで!! 先手評点、お願いします!!」
実況ハツマのホログラム映像(?)がきらりと輝くと、その背後の大型ディスプレイを指し示す。いけないいけない、私まで知鍬のDEPに引き込まれていた。そこまでの威力とは思えなかったけど、カードの切り方っていうか、巧みな話術っていうか、つい「平均点以上」の評点をつけたくなってしまうような絶妙さだ。
いま現在は結構普通にかわいらしく見える外見の知鍬は、作ってんだろうけどかなり自然な笑顔で、観客に愛想を振りまいている。うん、そつ無い。やばい予感がしてきた。
<先手:66,229pt>
……やはり。そこそこのポイントをたたき出してきた。
「……『マシンガンジャブ』。とりあえずはそう評しておこうか」
私の背後のセコンドブースで、アオナギが悟ったようなどうでもいいような事を静のドヤ顔でかましてくるけど、そんな余裕は無いだろ。
「後手、着手っ!!」
そんな逡巡の間にもう私の手番だ。慌てて真っ白になっていく頭の中、何故か、「拳銃」のビジョンが浮かび上がってくる。何これ。
「……」
そんな困惑の私を置いて、その拳銃の像は真ん中らへんで、ぱきりと半分に折れ、中のドラム式(?)の弾倉を露わにしていった。そして疑問を挟む余地なく、その弾倉はひとりでに回り始めていく。
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