#059:奇祭かっ(あるいは、事態/衰退/タイドダウン)


 窮地。運営が私を殺しに来る、その理由ははっきりとはしないけど、はっきりとした作為は既にびんびんに感じている。


「結局はそういうことか……初摩ハツマ、お前も」


 装置に乗り込んだ私の背後、外周に設けられたセコンドボックスから、カワミナミくんが鋭い声を投げかける。その言葉には珍しく怒気のようなものが含まれていた。


 <……>


 突如、ハツマの姿が正十六角形の「対局場」の中央に浮かび上がる。微笑を保ったままの表情。これバーチャルな感じの立体映像ってやつ? じりじりと何故かゆっくり回転しながら、その|像《(ビジョン)はカワミナミくんの言葉を受け流し、局面が「ご指名タイム」に移行したことを告げるのみだ。


 何か因縁ありそう、とか思ってる場合じゃなかった。


 <04:知鍬チグワ 指名→ 16:水窪ミズクボ


 私を指名してきたのは「4位」「9600万持ち」の奴だった。金の多寡が更なる有利不利を呼ぶのならば、最悪の相手だ。何か……何かこちらにも「いい手」みたいな要素はないの?


 流石に追い込まれ始めてきた私の眼前で、小さなディスプレイが不意に切り替わった。懐かしい昔のテレビの砂嵐のようなものが画面を埋め尽くし、うねっている。何か……運営の意図していない感、をそのアナログな映像から受け取った。


 もしや救いの神? との果敢ない私の願いは、


 <ワカクサぁん、主メンタルとお会いするのは初めましてねぇん、おは!! ぶぉんじよぉぉぉるのっほぉぉぉぉん!!>


 古代アステカのごたる祭事面に、ぶつりと画面が切り替わると共に、断ち切られたかに思えた。


 むほほむほほ、と笑い声なのか呼吸音なのか、そのどちらにしても奇妙さに些か曇りは無いんだけど、この方は確か、姐やんに魔法の白濁酒を授けてくれた、正にの救世主でわ……でも画面越しでも間近で見るそのご尊顔は、こちらをふと真顔にさせてくる強烈なインパクトを有している。どっちやの。


 その節はどうも……みたいな妙に畏まってしまう私を置いて、その透き通る白いおかっぱの怪人……ジョリさんは、常人の三倍くらいの高いテンションで喋り始める。


 <まずい事態に陥りはじめてるぅん? だいじょぶよぉん、『やつら』の情報、こちとらちゃあんと掴んでいるんだからぁん>


 さすが。外観はともかく、頼れるお人のようだ。情報が何より大事というのは、この戦いにおいても嫌というほど思い知らされてきたわけだし。私はその鼓膜に来る野太いながらも甲高さも併せ持つといった、表現しづらい音声に耳を傾け過ぎないように注意しながら傾ける。


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