#058:半周かっ(あるいは、皆さんご唱和、中締め一本おなしゃす)
「第一ピリオドっ!! お題は『黒歴史』!! BETタイムは30秒!! 皆さん、目の前お手元の『ベガシック・プールタンテーボゥ』に御自身手持ちの『チップ』を滑り込ませてくださいっ!! それではぁぁぁ、ベッティング、スタートぉ!!」
遂に始まる。何度も言うが、後の無い私は、この「第一ピリオド」とやらを「最終ピリオド」くらいの気合いで乗り切るしかない。まずはBET。ここでやる事はもう決まっている。
左手首に装着された「チップ入れ」は、左親指の第一関節を曲げることによって、掌にチップが連続イジェクトされてくる機構となっているそうで、こういう無駄とも思えるこだわりは半端ない。私は迷わず全イジェクトさせ、掌でタワー状にまとめ掴んだその薄い蛍光黄色のチップを、目の前の小さなディスプレイが設置されている、さらに手前にある「投入口」に次々と入れていく。メダルゲームのような感じで挿入してるけど、これ一枚100万円なのよね……いやいやそんなこと考えない考えない。
BET額の多い順に、「指名権」が振られる。相手もよく分からない最序盤で、相手が選べるというのがどれほどのアドバンテージなのか。普通ならさほどのもんじゃあないだろう、と思う。
だが、私が知ってる相手が一人いる。
「……」
私はちょうど真正面で、その巨体を窮屈に「檻の籠」に押し込めている力士然とした佇まいの大女を見据える。予選で闘い、そして私が強烈な張り手でダウンせしめられた相手だ。姐やんが一撃で体を浮かされた、そしてその時の意識の奥底で、「私」も震撼させられたほどの突進力と破壊力……でも今回は「格闘」じゃあない。
DEPは己の現状を語った結構なものだったけど、客ウケは芳しくなかったと記憶している(姐やんそれに負けてたけど)。カリヤだったかダテミだったかが、「格闘」に持ち込む前にDEPで沈めたとか何とか言ってたのも聞いた。やりやすい相手……油断はできないけど、今はそれにすがってやるしかない。他の面子は全くの未知であるわけだし。
「……」
大銀杏を結ったセンコは何故か私と目が合っても神妙な顔つきだけど、やはりDEPに自信は無いのかも。私は眼前の、対局者16名の持ち金と名前を表示しているディスプレイに目を落とす。
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01:9600:島=ワシントン大佐
02:9600:
03:9600:
04:9600:
05:4800:
06:4800:
07:4800:
08:4800:
09:4800:
10:4800:
11:4800:
12:4800:
13:2400:
14:2400:
15:2400:
16:1200:
>
あっるぇ~、一等上段に佐官級がいらはるぅぅぅ、とまずは一番に突っ込んでとばかりの直球を目に食らい、思わず左隣……「01」レーンに目をやる私。そこには。
「……」
どこの国の軍帽かは分からないけど、えらい前方に張り出す感じの、ごっついのを被った、綺麗な金髪をその下から垂らした、二重の美少女が小さな唇を引き結んで敬礼してくる姿があるのであった……何だろう、何の擬人化なんだろう。それすらも分からないけれど、予選一位であることは確か。私はさりげなく視線を見なかったよ風に外し逸らすと、ディスプレイにだけ集中しようと努力する。
初っ端BETは様子見の輩が半分はいると踏んだ。私の「1200万」は相当張った額のはずだから。よってセンコを指名できる、それが叶う確率はかなり高いはず。この一局が勝負!! そして少しでも優位に立てれば……っ!!
そんな私の希望的観測は、あっけなく破られることになる。そもそも初めから疑ってかかるべきだった。運営が、何もしてこないわけないってことを。
<01 BET:1300
02 BET:1300
……
15 BET:1300
16 BET:1200>
見事に並んだ「1300」の数字。私のBETをちょうど上回る数字。
全員グルか。嵌められた。私は沸騰しそうになる大脳と、血の気が引いて体温が急落していくその下の身体との温度差で真っ二つに割れそうになりながらも、活路を見出すために目は逸らさずに気持ちだけは踏ん張り続ける。
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