#060:英雄かっ(あるいは、リプライズの、ロマンシング神様)


 <ジョリちゃんのッ!! 耳よりっ、じょーほーきょくぅぅぅぅぅッ!!>


 深夜ラジオのノリでぶっ飛んだ音声が漏れ出てくるので、慌ててタッチパネルになっている画面の音量部分を操作して静かにさせる。


 情報を、手短に、と、私は唇をなるべく動かさず、周囲一間にしか届かない夜盗の声色で、画面向こうのジョリさんに先を促した。あらぁん、オッケイよぉん、と気と間の抜けた声が返ってくるけど、大丈夫だろうか。


 <……当然ながら、だけどぉ、やつらは全員が運営の手の者よぉん>


 無駄な流し目を送ってきているが、その口から放たれる情報は重要だ。運営……やはり、そーゆー汚い手を使ってくるってわけね……。がっかりだよ。


 <ま、そんなの大したことないわけだけどねぇん>


 しかし、意外と余裕のジョリさんの声が、私の思考に被さってくる。え。そうなの?


 <古来……そんな運営内の特務機関……『元老院』に真っ向から立ち向かい、これを屠りせしめた伝説の勇者がいた……のよぉん>


 「元老院」なんてあるのか。ダメ界も奥が深い。いやそれよりもその「勇者」がどうやって戦ったのかを知りたいもんだけれど。


 <……勇者の名は、『室戸ムロト ミサキ』。予選の途中休憩の時にワカクサ、あなたに『プレゼント』を届けてくれた坊やよぉん>


 ジョリさんの言葉に、あ、となる。あの特徴薄い少年……そう言えば私の対戦相手から、えらくビビられていたような……なるほど、そんな見かけじゃあないけど、実を伴った実力者だったってことね。じゃあそのヒトの戦い方から、今回も「勝ちへの方程式」を授かれば良しと、そういうことなのね?


 <あ、いや、ムロっちゃんの『淫獣DEP』は誰にも真似できないものだから、参考にはならないのだけれどぉん>


 ん? ジョリさんの口調が歯切れ悪くなったことに、一抹の不安を感じる私。じゃあ何なん? このやり取りはぁぁぁぁぁぁッ?


 <なので、ここ今回の『ネオ元老院』について、アタイなりに調べたことを開チン!! いたしますわのよぉん>


 私の無言の圧力に不穏感を受け取ったのか、少し慌てた感じで続けるけど。大丈夫でしょうね。


 <『ネオ元老院は、33名の有段者によって組織される、倚界最高の決議機関である』>


 ……いきなり物々しくなったけど。そんな人数いるんだ。そしてネオて。


 <……『ネオ元老院に属する者は、それぞれネオ元老名を振り分けられ、それを名乗ることが許される』>


 それ許されるほどのコト? 私は既に真顔になりつつあるものの、


 <『そのネオ元老名は、京浜東北線各駅の駅名を逆から読んだものをモチーフとする』>


 何で? 理由を聞いてもケガを被りそうなのでダメっぽいけど何で。そしてモチーフて。


 <『よって全47駅より、山手線と被る14駅および名称未確定の新駅を除いた計32駅を、ネオ元老院を構成する各々に冠する。曰く、大船、本郷台、港南台、洋光台……>


 いやもうええわ!! ワケわかんない度合いが増しただけじゃないのよ。


 <……ともかく、貴女以外15人全部が元老よぉん。相当の実力者たち。気を付けてねぇん>


 気を付けようもないようなことを告げて、ジョリさんからの通信は途絶えたわけだけど、やるしかないってことだけは分かった。まあそれは初めから分かってたことだけど。


 私はその元老同士が茶番を繰り広げている対局を傍観しつつ、自分の番が回ってくるのをひたすら真顔で待つしかない。


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