#051:更迭かっ(あるいは、ウサギ不味し鹿野山)

 ……ユズラン戦、顛末推して知るべし。


 糸切り歯がぐらついてる~。まったく。何者かの意志が、私を阻害しているとでも言うのかしらん。カタルシスが……足らんのと違う?


 とりま、「Aの破壊」は相成ったわけで、「2勝3敗」で並んだ残る3名による決定戦がこれより行われることとなった。それは想定通りだったんだけど、何か、ね、体にのしかかる疲労感が半端ない。


 コーナーポストに寄り掛かりながら、私はグローブと足先のプロテクターにまたも装着された、アルミホイル状の「オフェンスアドバンテージ」を撫でさすりながら、闘いのゴングを首を鳴らして待つ。


 私の崇高なる意思(運営への恐喝)により、本決定戦も、いきなりの「格闘」パートから始まることになった。「オフェンス」全員装備の、三者入り乱れてのバトルロイヤル。そしておそらくは……サドンデス。


 ちゃちゃっと済ませないと、ほんとにぶっ倒れそうだわ。ここまで来て、そんな醜態は避けたい。そして私はリング上で、既に正座状態で許しを乞うている汚い顔二つを並べ見て、うんざりと溜息を吐く。最後はもう……消化試合以下だな、こりゃ。


「お、おおおっしゃられた通り、勝ち星を並べましたよぉぉぉぉっ、こ、これで私はお助けいただけるんですよねぇぇぇえぇ?」


 ダテミかカリヤかどっちかがそう媚びる顔で言うものの、


「……キックノ、撃チ方ヲ、知ッテルカ、ダッテ……?」


「それこいつ!! こいつが言ったことです!! あ、あーし無関係すから!!」


「……ドコマデモ、追イ詰メテ、追イ込ム、ダッテ……?」


「それこいつー!! こいつ!! こいつ!! ていうか一言一句刻み込まれているよ怖いよぉぉぉぉぉっ」


 私の放つ、地の底よりの低音掠れ声に、責任をなすりつけ合って揉めている。もういい。お前らの顔は……ほとほと見飽きたっつうの。


「私ヲ……愚弄シタル者……残ラズ……刈リ取ル……」


 ふらり、といい感じに力が抜けている私の体は、獲物を目指しリングの中央まで歩み出ていく。


「やだだだだ怖い助けて!! 喰われちゃう野獣に!! とと止めてよぉ!! 試合止めろってばぁ!!」


 テンパり過ぎて、テンパり過ぎて、震える……ダテミが怒鳴り始めると共に、


「ボクそんなんわかりませんでしたもん!! 何で!? 何でそうまでヒトをどげんかせんといかんのん!?」


 泣きギレし始めるカリヤ。……お前らに慈悲が下るかどうか……一応、姐やんに聞いてみてやるよ。


 眩いライトが照らすリング上空を見上げると、そこにはやはり神々しい姿の輝く金色のビジョンが浮かんでいるわけで、あれ? 微笑みを湛えたその右手にはドス赤い液体が滴る大振りの毛筆……? そして掲げられた左手にはB4くらいの大き目な半紙が……?


 <鏖>


 墨痕鮮やか、アンド何のかは分からないし分かりたくもないけど、血痕鮮やかな雄々しき一文字が。ああーこの文字知ってるー。


 ―ん存分にぃぃぃぃぃ、マサクゥりなさいですわぁぁぁぁぁぁ


 ですよねー、こいつらにはいちばんいいようにコケにされましたしねー。


「……み、な、ご、ろ、し♪(にっしこり)」


 <やばいやばいやばいですよぉぉぉぉぉっ!! 水窪ミズクボ選手が、何かいい笑顔で一文字一文字はっきりと口にしてる言葉がやばいぃぃぃぃっ!! も、もうでも私は関知しませんので!! お三方ご存分にっ!! 最終決定戦開始ぃぃぃぃっ!!>


 投げやり感の増した黄色実況の声と、開始のゴングが重なる。

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