#052:最終かっ(あるいは、ツープラトニック/LOVE/2018)

「ぬおおおおおっ、もうやってらんね!! つーか二人がかりでいきゃあこのモンスターにも打撃は入るんじゃね? カリヤ左に回れっ!!」


 開き直ったか。ゴングと共に戦意を露わにして飛び出したダテミは、必死の形相で私の左側に回り込もうとしているけど。そしてもう一人に逆方向から挟み撃ちの指示を出してるけど。


 甘いっつうの。私はその裏を取って、一歩引いてそれを軽く交わすと、ダテミの泳いだ身体のさらに右側にステップで入る。そしてダテミ―カリヤの立ち位置が一直線で結ばれた瞬間、私の溜めた右が火を噴いた。


「!!」


 この「オフェンスアドバンテージ」はなぁ、「貫通」するんだよ。さっき黄色に何か有用な情報が無いか(脅して)聞いておいて良かった。この世の中は今や情報がモノを言う。戦う前から……お前らの敗北は決定づけられていたんだよ……


 <何かまた悟った風の目をしてますが水窪ミズクボ選手っ!! それにはもう触れないことにします!! とにかく穏便に、穏便にこの試合さえ終わってくれれば……っ!>


 黄色の実況の中を、仲良く小汚い顔の右側を撃ち抜かれたダテミ&カリヤがたたらを踏む。あらら、一直線上に並んだまんま足止めちゃった。手間省けて助かるわー。


「フオオオオオオオっ!! くっ、静まれ私の自尊心んんんんッ!!」


 <み、自らの、暴走を抑え込もうとしている体ですが、我々はもう知っているッ!! それが完全なるポーズであるということをッ!! 殺ると言ったらもう殺り終わっててもおかしくない人材です。200%殺る気だッ、出るぞッ!!>


 実況……わかってきたじゃあないの。私の構えた体は「∞」の軌道を描き始める。


「シィィィヤァァァルウィィィィィっ!! デャァンス、マケイボォぉぉぉぉぉぉ!!」


 瞬間、規則正しく繰り出される左右のフックが、ダテミおよびその背後のカリヤの体を一発残さず捉え始めた。


 ぼんごれぇ、と、ぽもどぉろ、みたいな呻き声を上げつつ、二人の体はファンファンウィヒットな感じで、時間差を持って左右に跳ね弾かれてはまた戻される。そして、


「キックは!! キックの撃ち方はこうっ!!」


 フィニッシュだ。今日いち会心の出来の後ろ回し蹴りは、高い打点にてダテミのこめかみを直に的確にとらまえ、


「追い込むのは!! 身体と精神の追い込み方はこうっ!!」


 吹っ飛んでいったその身体の陰から現れた驚愕の表情のカリヤに、リバーの形が実感できるようになるほど執拗に、左右の連打を直にボディに放り込んでいく。


 白目を剥いたカリヤの体が、尻餅をついてから仰向けに倒れた。リング上には荒い息の私だけが立ち尽くしている。


 <け、決着ぅぅぅぅっ!! えと、いや、『第一の』かな……?>


 実況……分かってきたじゃなぁぁぁぁい、ま、こいつらの破壊/非破壊は私の予選突破には何ら関係がないのだけれど。


 ……シメが無いと、締まらない、よね? 上空を見上げると、姐やんは両手でハートマークを形作っていい笑顔をしてくれている。それに同じ仕草で応えると、ロープ際に吹っ飛んでいったダテミの体をいったん立たせ、その右肩に自分の頭をくぐりこませてしゃがみ、相手の膝裏を掴んで上下逆さに持ち上げる。土師潟ドシガタの時と同じね。


 <や、やはり出たっ!! もはやこれは儀式ッ!! 我々は無力です……ただ……見守ることしか出来ない……ッ!!>


 諦観に彩られた黄色実況の中、私はダテミの体を抱え上げたまま、カリヤが伸びている側のコーナーポスト一段目に乗る。どよめく場内。その不穏な空気を察知したか、ダテミとカリヤが目を覚ます。けど。


 ダテ「エヒィィィ、お助けェェェェっ!! もう私ら関係ないじゃないですかぁぁぁっつ!? 非破壊でっ!! 非破壊の方向でお願いしますぅぅぅ」


 カリ「あ、あちきはっ!! 倒されて心入れ替え、もう頼れる仲間になりやしたぜっ!! ねえさん、共に戦いましょうぞッ!! だからあちきだけは勘弁してぇぇぇっ!!」


 ワカ「……人間は、所詮ひとり。孤独なる生き物……ならばせめて、未来へ繋がる橋を架けて、各々の餞と……しよう」


 黄色<……やっぱり予定変更は無い模様ッ!! もう見守る!! 見守るしかないもんねっ!!>


 ワカ「おおおおおっ!! 最終奥義ッ、『天才・ワカクサのGANKIが出る=OPPIROGE MAN擦るドッキング=栄光へとブッ架けるブリッジオブジレインボォォォォオオウ』っ!!」


 黄色<出ちゃった!!>


 私の体はダテミを抱え上げたまま後方へと反り返りつつ、バックドロップの要領で倒れ込んでいく。割り広げられたダテミの股間は綺麗な弧を描くと、寸分違わず、マットに仰臥していたカリヤの顔面に着弾した。


「「!!」」


 悶絶する二人。アーチを描くそのままの体勢でカウント3が取られ、予選は全て終了したのだけれど。


 ……やばい疲労ね。私も決着と共にリングに体を投げ出す。


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