#050:決着かっ(あるいは、YAPだねキタミくん!)
<決着ぅぅぅぅぅぅっ!!
歓声がブースの外で爆発したのが私にも感じ取れた。実況黄色が、珍しく弾んだ声でそう締めようとする。そだねー。そんな一面もあるよねー。
が、が。
……これで終わったら、私の予選突破が無くなるっつうの。私はまたしても疲労で重くなりつつある体に鞭打って、リングの真ん中らへんで、煌々としたライトに照らされて仰臥しているユズランの元へと歩み寄る。
<何と!! 戦い終えた勝者が、健闘した敗者を助け起こそうとしています……っ!! 感動、そう、足りなかったのはこんな感動……っ!! いま、水窪選手が……
「……ただの敗北には興味ありません……この中に、精神破砕・神経摩砕・人格爆砕を望む者がいたら私のところまで来なさい……以上……」
<何かまたぶつぶつ呟き始めた!! 何でなん!? 何で大人しゅう終わらせられへんのっ!!>
私は、意識が飛んでいるユズランの体を一度ま〇ぐり返しの体勢にしてから、その胴に両手を回して、がっきとハッグすると、
「おおおおおおおおおおおお」
残る渾身の力を込め、上下逆さのまま持ち上げた。そのまま慎重に後退すると、コーナーポストの二段目までバランスを取りながらゆっくりと登る。
<ああーっとお、これまた、これまた伝説の……っ!! またしても嫌な予感しかしないィィィィっ!!>
実況の裏返った声の中、私の眼下にあるユズランが目覚めた気配がした。構わず続ける。
「……このボディスーツの繊維は、引き裂くには少し困難な強度だった。よって鋭利なもので少し切れ目を入れることで、断裂しやすくなるのではと……さっきの試合より鑑みた」
私は眼前で大開帳しているユズランの股布に思い切り噛みつく。アンッー!! というような嬌声が一瞬上がるが、しっかり噛みこまれ引き延ばされていく生地を見て、私の意図していることを察したのか、その体全体が小刻みに震え出す。
「……このまま落下重力も足して、キャンバスに叩きつけると同時に、このスーツの股間部分を噛みっちゃぶくっ!!」
<やっぱりだ!! やっぱりだよう!! 彼女は相手の身体+精神を共に破壊しないと気が済まない、極めてシリアルっぽい要素を内包した……いやもうシリアルだこれ!!>
錯乱気味の実況が響き渡る中、私は最後の力を振り絞り、口に布が詰まった状態ながらも通告を下そうとするが、それを遮ってユズランが引きつった顔で命乞いをしてくる。
ユズ「お、お金ならすべて差し上げます……そして私もここで棄権いたしますわよ……、ね、ねえ、それで貴女の望む全てが手に入りますわ……それ以上の公開処刑は無意味を通り越して最早意味不明ですわよ? さ、さあ思い直して早く私を降ろしてくださいな」
ワカ「……意味、か……わしらが生きている意味とは、……人生とはいったい何なのかのう……」
黄色<き、聞いてないっ!! いや鼓膜に届いてはいるけど、脊髄以上の中枢には全く響いていないっ!! そうでした、何を言っても全部無駄!! 彼女は最初から……殺る気だっ、一直線の殺意のベクトルが私にも見えますっ!! 見えまくりやがってますっ!!>
ワカ「……この『アルティメット若草・OPPIROGE MAN 29 ドライバー』にて、我が『
黄色<お、教えてっ!! その怪文書の出どころと存在意義をッ!! そしてやっぱり出ちゃった狂気のフェイバリットホールドぉぉぉぉぉっ!! 黒服さぁああああんッ!! 止めてぇぇぇぇっ>
ユズ「っ助けてください!! っ助けてくださいですわぁぁぁぁぁっ!!」
ワカ「……だからもう大脳で考えちゃあいないのよ、この私はぁ。助けるか助けないかは……」
私は両膝に力を溜めると、そのままの体勢を保ったまま、前方へ向けて跳躍した。
「……脊髄にっ!! 聞いてみろぁぁああああああああああっ!!」
暗転。
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