#036:居合かっ(あるいは、伸縮自在/用ォ賀ッ/愛人AI-REN)
正面でオーソドックスなスタイルで構えるダテミさんの手と足には、スポットライトの光を銀色に跳ね返して輝く、アルミホイルのようなものが巻かれていたわけですけど。
「アドバンテージ:オフェンス」……先ほどの「ダメ」で得たと見られるアイテムらしきものみたいですけれど、見た目からはその威力は皆目伝わって来ないのですわ。
でも、わからないでも何でも、ここが正念場なのですのよ。
六名のリーグ戦で上位二名が抜けられるわけでして、三敗したら流石にアウト。今の二敗ですら、相当厳しい状況と言えますけれど、でも予選突破へ一縷の望みはある。ですから、ここは一番、何としてでも勝ちにいきますのよっ。
「格闘パート」の始まりを告げるゴングが打ち鳴らされ、リング中央でにらみ合う私と、対局相手……軽いフットワークを見せているダテミさんはおそらくは手数で押してくるタイプと見ますわ。
相手からの攻めを丁寧に受けて、パンチの引き終わりに合わせての右ロー。
おそらくそれが最善。カワミナミ様より伝授されたこの閃光の右で、あなたの両脚を根こそぎ刈り取ってやりますわよ!!
ダテミさんは、初対面の時に見せた快活さは内に押し込め、真剣な眼差し。押し込められた闘志もその両肩から立ち上るようですわ。
細い目を見開いているものの、表情はそれで完全に固定。それゆえに次の挙動は読めませんの。
ただ、開始から三十秒くらい経過したでしょうけど、手を出す気配は無い……おそらくは、先ほど私が強烈な電流を喰らっても平然としていた、そのことを警戒してらっしゃるのかしら……
間合いを詰めての撃ち合いは不利、そうダテミさんが見ているというのならば。
それよりも少し距離を取った、一発、一撃で意識を刈り取る、後ろ回し蹴りの間合いで留まる可能性はありえますわ。狙える……かもですのよ。
「……」
私は重心をやや右足に置いて、間合いを測りますの。威力は絶大ですけれど、同時に多大な隙も晒す技……チャンスは一度しかありませんわ。落ち着いて、相手の出方を伺いますの。
<ああーっとぉ!! 両者動かないぃぃぃっ!! 先に手を出した方が不利とばかりに固まってしまったぞぉぉぉぉっ!! 既に一分経過っ!! まさかこのまま終わってしまうのかぁぁぁぁっ>
実況少女、セイナさんが張り上げる声と共に、客席からはブーイングのようなざわめきがスピーカーを通して、緊迫感が覆っているリングへと降り注いで来ますの。
ですけど、動いた方が刺される、そんないやな予感がしますわ。そんな思考を巡らせていた、その時、
「!!」
ダテミさんの右肩がぴくりと動いた!! いきなりのストレート……? それにしては距離があり過ぎるような……正に、回し蹴りの間合い、ですのよ。
好機、と、露出している肌全面で、空気の揺らめきまで感じ取れるような集中の中にいる私は、ダテミさんの右腕が伸び切る前に、右足を軸に身体を右に振る。
そして素早く左に重心を移して、右踵を刈り取るように上方へ振り上げる。完璧なタイミング……ダテミさんの右腕の上方を通り、私の右踵が先にその無防備な右こめかみに到達する……っ
勝利を確信した、その瞬間でしたの。
「!?」
鳩尾。激しい衝撃をそこに受けた私は、片脚立ち状態のまま、後方へとスライドさせられるかのように弾き飛ばされる。まったく予期してなかった鈍い打撃に、顔が歪んでしまう。
一瞬、呼吸が止まりますけれど、何とか相手に向き直って構えを取り直しましたの。
でも、ですのよ。
腕が……伸びたとしか思えないダテミさんのストレート……相対するダテミさんは目を見開いたまま、少し微笑んだように見えましたけど。
……いったい、どういうことなのですわっ。
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