#033:立会かっ(あるいは、愛の、愛のカルデレータ)
「シート」から放たれた私と仙子さんは、水色のキャンバスの上で対峙するのですわ。
「ダメ」から「格闘」への転換……それこそが、この「
「それでは『格闘』パートっ、ラウンドワン、ファイっ!!」
実況少女、セイナさんが高らかに告げると、金属のアームに支えられたシートはロープ上を通過し、引っ込みますの。リング上には、仙子さんと私の二人だけが、真上から降り注ぐライトの熱を浴びてますのよ。
「……」
いやが応にも、緊迫感は増し増しですけれど、不思議と私は平静を保てているのですわ。これも特訓の賜物……と考えたいのですの。
「……」
対する仙子さんは、既に腰を割って、拳を突いた立ち合い姿勢で、私の挙動を伺っていますのよ。間近で見るとやはり凄い迫力……闘志が、すさまじい眼力となって私の眉間を撃ち抜くかの如くですわ。
その構えは、大関昇進を決めた場所の高安くらい、隙の無い「長方形」を形作っていますけれど。けれど、初っ端右のぶちかましが来ると言うのならっ、左にいなしての右ロー。それが入るはずっ!!
急激にやる気が出てきましたわ。負けじと私もグローブに包まれた両拳を体の前面に構え、左足に体重を乗せますの。初手さえしくじらないようにして、このウェイト差を、何とか技で埋める。それだけですわっ。
「……」
チリチリとした静寂が、リングの上で時折爆ぜるかのようですのよ。重苦しい沈黙の後、
「!!」
仙子さんの降ろした左手がぴくりと動いた! 瞬間、怒涛の勢いでその巨体が迫るっ……
ここだっ、と体を左後方に流し、その勢いも乗せて右ローを振り抜くっ……!!
右からのぶちかましは完全に見切った、と思った瞬間、仙子さんのグローブを嵌めた掌底が、眼前に迫ってきていましたの。
「こっ!!」
思わず出た声と共に、右顔面に、強烈な衝撃を受けたのを感じましたのよ。ヘッドギアは着けていたものの、その衝撃に耐えきれず、私の体は後方へと吹っ飛びますの。
誤算はただひとつ、仙子さんは高安では無かったということ。右ぶちかましに備え過ぎて、完全に左がお留守になっていましたの。のけぞる瞬間がスローモーションのように訪れて、宙を舞ったのを認識できたのを最後に、私の意識は途絶
「……」
「気づいたか、ねえさん」
次の瞬間、私は自分の体が仰向けに横たえられていることを悟りますの。リング下……スポットライトが目に沁みますわ。
「私……また負けてしまいましたのね。『格闘』でもダメだなんて……」
上から覗き込んでくるアオナギさんに、その言葉を返すのが精いっぱいだった私は、目を再び閉じて、感情が高ぶってくるのを必死で抑え込む。
ダメ……ですわ。私にはこの戦いを切り抜ける術がありませんの。
<A:ユズラン:二勝
B:センコ :一勝一敗
C:ダテミ :二敗
D:シズル :二勝
E:カリヤ :一勝一敗
F:ワカクサ:二敗>
二敗……もう後がありませんの。でもこの状況を打開する術とは、未だに出会っていませんのよ。いったい……どうすれば。
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