#026:冗長かっ(あるいは、マネー・ザ・マネー)
私たち四名も、他の参加者の方々と同じように、周囲を巡る、見上げる高さの「ブース」の方へと歩んでいきますけど。私には先ほど実況の方が告げた「支度金300万」という言葉に未だ納得がいっていませんのよ。
「まあ参加料っつうか、優勝すりゃあ返ってくる見せ金みてえなもんよ。ねえさんは気にせず、どんと対局に臨んでくれりゃあいい」
説明を求めますと、アオナギさんは事もなげにそうおっしゃりますけど。でも300万は300万円ですわよ? お金がすべてじゃないなんてことは、私はいやというほどこの身に知らしめされてきたわけですけども。それにしても300万ですわよ?
と、もやもや感でこれから対局どころではない私に、隣のカワミナミ様は平然と歩を進めつつ、やさしく説明をしてくださいますの。この、まだまったく未知の「
「リーグ戦はひとり『五戦』ずつ対局を行うわけだが……勝利するごとに、供託金である『300万円』を『2倍』に出来る権利を得る」
ん? えーとですわ。えーと「2倍」? 2倍になって返ってくるというのでしょうか。え? ちょっと待ってください? 2倍が2倍と倍々に増えていったのなら……それが五回続いたら、
「……『9600万』だぜぇ、あねさん。ちょっとした蔵が建つってぇもんよぉ」
丸男さんは何かおはぎ状の物を頬張りながら、そうおっしゃいますけども。それって私のこれまでの生涯賃金を軽く超えていますのよ。
それはいくらなんでも破格すぎなのでは……そもそもその凄まじい余剰分を誰が支払いますのよ、と、私が腑に落ちない顔をしていたからでしょうか、アオナギさんがその後を引き取って説明を始めますの。
「いるんだよなあ、好事家どもが。特にこの
そういうものなのでしょうか。いまいち釈然とはしませんけれども。でも観客席の多くを埋めているのは、何というか、その、嗚呼としか言いようのない、いい年をされた男性の方揃いでございますことよ。
「まあこの席料だけで、下は5万から取ってるんだぜ。それでも2万ある席はすぐに完売よぉ。どうよねえさん、少しはこの戦いの実感が湧いてきたんじゃあねえの? 『2億』掴むのも満更絵空事じゃねえんだ」
アオナギさんは少し力の入った声でそうおっしゃりますけれども。
でも私はお金のためではなく、自分をこの場で表現するために来ましたのよっ、と言い返してみると、途端にお顔が真顔になってしまいましたの。どうしたというのでしょう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます