#022:忌憚かっ(あるいは、ようこそ両国デジャブーランド)
闇の奥底へと続く階段を、ひたすら下っていきますの。建物十階分くらいは、優に降りたでしょうか。
「!!」
階段が途切れた所にあったのは、眩い光があふれてくる、四角い入り口。
「ぴったり時間通りに来られたようだな。正にいま、開幕の時だ」
私の後ろからそう告げるアオナギさんの声に背中を押されるようにして、その四角をくぐり抜ける。その途端に、ごう、というような、歓声のような怒号のような、大勢の方が発する地鳴りのような声のうねりを、体全体で感じてしまいますの。
「こ、こんなに人が……」
思わず周りを見渡し、そう呟いてしまいましたものの、それも無理からぬ事ですわ。
先ほどの国技館の敷地面積の、およそ三倍くらいはあるのではないでしょうか。
ぐるりを巡る観客席は、沢山の人で埋め尽くされてますの。球場並み……それは言い過ぎかも知れませんけども、とにかく圧倒されるほどの人の群れですわ。
「いよいよ最後だっニューカマー!! 48人目っ、実力未知数、詮議は無理数、カワミナミの師事を受けた今大会きってのダークホースっ!!」
と、いきなり私に向けて無遠慮なスポットライトが浴びせかけられますの。そして響くキンキンの女性の絶叫に近いハイパワーボイス。
「ミズクボぉぉぉぉぉぉっ、ワカクサぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その全身に煌びやかに明滅する電飾を飾り付けた、不思議な格好のモデル体型の女性が、そう私の事を紹介してくださいますけれど。事前に結構、情報は行ってるみたいですのね。
ちょっと躊躇いましたけど、片手を軽く挙げて、周りからの爆発的な歓声に応えますの。何という熱狂でしょう。少し薄ら怖ろしいところもあるにはあるのですけれど。
「全対局者揃い踏みでぇぇぇぇぇぇっ、いよいよ開幕だっ!! みんな、ダメ人間にぃぃぃぃぃぃ、なりたいかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
電飾美女の煽りに、今日いちばんの歓声が爆発する。その異次元の雰囲気に気圧されながらも、私は会場の中央、私と同じ参加者と見受けられる、様々な世代の女性たちが集っているところへ歩み出しますの。
もうここまで来たら、やるしかないのですわ。少し自分の今の状態に、疑問を持つ自分がいたりもするのですけれど。でもやるしかありませんわ。
と、
<溜王国 国歌斉唱>
いきなり会場の至る所にある大型のディスプレイに、そんな不可解な文字が躍ったのですの。
「みんなぁぁぁっ!! ……ご起立願います」
やけに神妙にそう告げると、電飾美女は姿勢を正し、右手を胸に当てますけれども。
私も一応、背筋を伸ばして他の方々がそうするように、右手を胸の辺りに持っていきますの。
いったい、何が始まるというのでしょう?
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