#021:漆黒かっ(あるいは、ここは両国シティアンダーグラウンド)


 場所中とは言え、七月場所は名古屋で行われるのでそれほどかと思いましたけれど、日曜日ともあって国技館は結構な賑わいですのよ。


色とりどりの幟が風にたなびき、家族連れや外国の方々が屋台のお土産を眺めたり、後ろから顔を出すパネルで写真を撮られてたりする中を、確かに鋭い目をした女性の方々がほうぼうに見受けられますの。


 ある種、不穏な空気を場に滲ませながら、その参加者と思しき怪しげなグループたち(含む私たち)は、建物の開け放たれた正面玄関から吸い込まれるようにその内部へと、誘われるかのようにして、するすると吸い込まれていくのですわ。


 本当にこの地下に……? との疑いは未だもって晴れませんですけれど、カワミナミ様たちは躊躇なく歩を進めますの。そのままホール状のエントランスを突っ切って、いきなり場内へとつながっていると思われる、映画館のホールドアのような扉を押し開けるマルオさん。


一瞬、耳鳴りのようなうわん、とした音が耳奥で鳴ったかと思いましたが、すぐに辺りを静寂が覆いましたの。土俵は……やはり今は無いのですね。工具や脚立が所々に見受けられて、いやに殺風景な空間ですけど、これって関係者以外立ち入り禁止な雰囲気なのではありませんか?


「参加証を。拝見します」


 と、物陰の暗闇からふいと現れました灰色のスーツに黒いサングラスをかけた男の方が、私たちに向けてそうおっしゃられたのですけれど。


「あ、いや……これは大変な失礼を。しかし一応規則なので……」


 いきなり恐縮しましたのよ。そしてそのまま腰をかがめながら、カワミナミ様が差し出したスマホに何やら端末らしきものを、うやうやしく翳しましたけれど。


さすがですわ。やはりやんごとなきお方ですのね、カワミナミ様は。


「……無礼を承知で伺いますが、後ろにいらっしゃるのが、九段の教え子の方で?」


 灰色服の係員らしき方がそう、少し興味深げ、と言った感じで私の方を見やりながらそう伺いますの。


「……二週間の弟子だがな。しかし、もとよりの素質はそこらのよりひとつ抜け出ている。私の持てる格闘を可能な限り叩き込んだつもりだ」


 カワミナミ様の落ち着いていながら熱意を孕んだ言葉に、おお、とその係員の方の表情に力が入りますのよ。それよりも私にそこまでの期待を込めていただいているなんて……光栄ですわ。


 後ろでアオナギさんが、だから格闘まで行き着けんのかよぉ、と悪態をお突きになられますけど、右脛にバックローを撃ち込んで黙らせましたの。


 こちらへ、との係員の方に促されるまま、私たちは場内の中央、場所中ならばちょうど土俵が鎮座しているであろう所まで向かいましたわ。


「!!」


 そこにはぽっかりと開いた黒い正方形の巨大な……3m四方くらいの穴が。

見ると幅広の階段が下に続いているようですわ。ここを降りれば、いよいよ対局の場となる会場ですのね。


 気を引き締めつつ、その先の見えない闇へと、一歩ずつ下っていく私たち。

この先には……いったい何が待ち受けているのでしょう?


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