STEP3 銀灰の魔撃手
1
『チーム
『チーム
『チーム
艦橋の一角の、大型モニターが設置されている司令室に、普段は教鞭を取る教師が物々しい雰囲気で手を動かしていたり、マイクに向かって話していたりする。
モニターには、作戦部隊の様子をチェックするための自立型カメラによって捉えられた映像が逐次送られてきている。
「いよいよ、というほど待ってはいないが、この時が来たか」
「まさか、連中のリベンジマッチに付き合う日が来ようとは思いませんでしたけどね」
僕はあまり人前に出るわけにはいかないので、姐御と共に窓ガラスと壁一枚隔てた艦長室で司令室の様子を見守りながら作戦の最終確認を執り行っていた。
「お前のおかげで、なんとかこの短期間で防備を整えることができた」
「いえ、こんなのはよく考えれば誰にでもわかることでした」
「まあそう謙遜するな。潜入経路の特定まで出来るのはお前くらいさ。しかし、まあ連中も間の悪い。まさか、演習当日に攻めてくるとは」
姉御の言葉の通り、今日は予定されていた大規模演習当日。しかも、僕が所属する高等部第一学年の開催日だ。
僕は最後の確認を済ませたのちに演習会場に向かうため、戦闘服の上に身を隠すための真っ黒な外套を羽織り、同様に真っ黒な人工革の手袋をはめ、これまた真っ黒なキャスケットを目深に被って、装備を整えている。
「方舟の注意が外ではなく内に向く絶好の機会だ、狙わない手はないでしょう」
そう、考えてみれば簡単なことだった。
異物を入れるためにわざわざ堅牢な外壁を崩す必要なんかない、あらかじめ、外壁が出来上がる前に仕込んでおけばいい。
いつから連中が活動を始めたのかはわからない、けど、かなり長期的に今回の作戦を計画していたとしたら、新生『黄金の環』が脅威として認識されるより前に現体制の方舟に内通者をなんらかの形で送り込める。
内通者とはいえ、リスクが大きいNNNに潜入している可能性は低いと考え、方舟上の民間業者、小売店や運搬業者などの人や物資の出入りに着目して調査してみたところ、今日着の貨物の中に不要な空白のコンテナを発見した。
スーパー内のテナントを使って営業しているあの精肉店だ。
店に問い合わせたところ、例年、演習終了後に学生たちがお疲れ様会を催すことが多いため肉の消費も増えるから発注を多くした。とのことで、各コンテナの積載内容が記載された資料も提供してもらった。
しかし、精肉の運送を委託されている業者に問い合わせたところ、用意している冷蔵用コンテナの数が合わないことが判明した。
「恐らく、この空白のコンテナの大きさから、潜入部隊が八から十人ほど積載されていると見ていいと思います」
「十人に対して、三十人で囲むのか。用心に越したことはないが、少しビビり過ぎじゃないか?」
「用心というなら、方舟に乗船させる前にケリをつけたいところなんですがね。万が一、学生に危害が及んだりしたらどうするつもりです?」
「仕方あるまい、管轄外の港で戦闘行為などマスコミのいい餌だ。被害と非難を最小限に抑えるには方舟の連絡港周囲の僅かな範囲で早急に終わらせるしかない」
乗船なんて、拠点内部に入られているのと同義だ。
僕としてはなんとかそれまでに捕獲しておきたかったけど、本州の港では民間人に危険が及ぶ可能性、運送業者は無関係の可能性などが示唆され、乗船を妥協せざるをえなかった。
「敵も馬鹿じゃないでしょう。スペアをいくつも用意しているに違いない。むしろ、包囲されていることを前提に動く可能性だってあります。万策を巡らさずして勝利はありませんよ」
『あー、あー、こちらチーム
「なんだ、三角、問題でもあったか?」
三角はどうやらまだ持ち場への移動中らしく、チームΩをモニタリングしているカメラには何も映っていない。
『問題っつうか……なんで、俺のチーム、俺しかいないんですかねぇ?』
「お前と部隊を組めるやつなどいるわけ無いだろ、フレンドリィファイヤ常習犯」
僕と姐御と
「仲間を巻き込むのもあるが、キミは臨海部では全力が出せないだろ。この配置はキミが万全に戦えるようにした配置だ」
ワンマンアーミーと言っても差し支えない戦力である三角は、彼の異名『死霊使い』の力の一端である『村正』があってこそだ。
村正は斬ったモノの精神に干渉する力を持つ、地面に刃を付き立てれば、土や石、砂に含まれる虫や微生物の死骸の残留思念に攻撃性を与え、土人形として使役できる。
弱点の一つとして、三角自身が流動体への魔力干渉を苦手としているため海中、海上、空中では術が扱えないところにある。
そのため、メインの作線地点である臨海部に三角を配置してしまうとその力を十全に扱えない。それどころか同士討ちをしかねないので、敢えて、離れた位置に単独で配置することにした。
作戦内容はチームΑが荷卸場から例のコンテナの捜索及び燻り出し、チームΒ、Γ、Δの三チームは出てきた敵部隊を包囲。この時点で拘束できれば良いが、何か隠し玉を使ってきた場合、チームΩのいる地点まで誘導、三角にぶつける。
本来なら甲板部全域を使っての大規模演習だったが、流石に作戦域に生徒を入れるわけにはいかないので、適当な理由を付け作戦域を立ち入り禁止にしている。
「三角、キミは今作戦の肝だ。決して気を抜くなよ」
『わかってる、俺が突破されれば、教え子の方に敵が行く。こんな俺でも教師なんだよ、少しは生徒のために頑張らねぇとな』
「キミが突破された時は僕の出番だ。それは最悪の事態だと胸に刻んでおけ」
今回僕は、学生『白雪未希』として演習に参加しなければならない。学生たちにこの作戦を勘付かれるわけにはいかないから、僕がなんとしても隠し通すしかない。
「姐御、もしものときはRXの使用許可を」
「やむを得ん、お前もいざと言うときのために気を引き締めておけ」
「
※
『こちら、チーム
『それどころか、あんな兵器見たことないですよ! 戦車でも戦闘機でもない』
『まずい、奴ら、三角を無視して行きやがった!』
『まさか、コンテナが変形して兵器になるなんて……』
『緊急事態発生、緊急事態発生、謎の兵器が演習会場にとてつもないスピードで向かってます、直ちに学生に避難指示を!』
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