【第19話:仲間との軽口】
隣にいるリシルが呆れた表情でこちらを見つめていた。
「それで
「えっと……どうしようか? ハハハ」
乾いた笑いをあげるオレに、ようやく我に返ったマリーが裏返った声で話しかけてきた。
「ててててテッドさんは! Sランク冒険者の方だったんですね!!?? ししし失礼しました!!」
別に何も失礼はしていないのだが、恐らく初めてSランク冒険者に会えば若い冒険者なら皆似たような反応を示すかもしれない。
それぐらいSランク冒険者と言うのは皆の憧れであり、特別な存在だ。
それにオレが知る限り、このイクリット王国には現在一人もSランク冒険者が存在しない。
昔の仲間は皆Sランク冒険者だったが、この国には一人も残っていないはずなので、他の国よりさらに遠い存在に感じることだろう。
「そうよ。でも、
「ててててテッドって……」
オレの呟きは無視されて話が進んで行く。
「わわ、わかりました! テッドさんの冒険者ランクの事は絶対に口外しません! 誰かに聞かれてもCランクだって答えます!」
「ほほほ。何か事情がおありの様ですな! 任せて下さい! このアキド、恩を受けた人のお願いとあれば絶対にこの事は他言致しませんぞ! 絶対に! いやぁしかしSランクの方ですか~」
他言しないと言ったアキドさんが既に誰かに言いたそうにうずうずしているように見えるのは気のせいだろうか?
なんだか凄く口が軽そうで心配なんだが……。
「えっと、すまないが頼む。それにリシルが言っている事はあながち嘘と言う訳ではないんだ」
オレのその言い様に、マリーが不思議そうに疑問の声をあげる。
「えっと、どういう事ですか? Sランクのそのタグは本物……ですよね?」
偽物だと思われてもそれはそれで厄介なので、本物だと言う点はしっかり伝えておこう。
「あぁ、このタグはもちろん本物だし、本当にSランクとして活動していたんだが……どういえば良いのか……」
オレがそう言って困っていると、リシルが助け舟を出してくれた。
「テッドは本当にSランク冒険者よ。ただ……何年か前に大きな怪我をしてね。あまり無理が出来なくなったから冒険者の申請をし直して、今はCランク冒険者として活動しているのよ」
「そ、そうなんですね!? すみません! 私余計な事を聞いてしまって!!」
そう言ってまた謝ろうとするマリーを止めて、
「ま、まぁ、そういう事だから他言無用で頼むよ」
何とかその場はリシルのお陰で上手く収まったのだった。
~
それからアキドさん達と一緒に街まで移動する事になったオレとリシルは、馬車の荷台でゆっくりとした時間を過ごしていた。
アキドさんの馬車が仕入れに向かう途中で積み荷が少なかった事もあり、お言葉に甘えて荷台に乗せてもらっているのだ。
「もう……テッドは目立ちたいの? 目立ちたくないの? どっちなのよ……しっかりしているように見えて、テッドって結構抜けてる所もあるよね」
「ははは……ほんとスマン……返す言葉が無いよ」
オレはリシルに面目ないと謝りながら、首にかかる冒険者タグがブロンズ製なのをもう一度手に取って確認する。
「ふふっ、大丈夫よ。ちゃんとブロンズのCランク冒険者タグだから。でも……ふふふっ、ちょっと面白かった♪」
リシルはそう言うと、楽しそうに思い出し笑いをする。
「勘弁してくれ。でも、さっきは上手く誤魔化してくれてありがとうな」
オレは昔から嘘や言い訳が苦手だった。
駆け出し冒険者時代などは何度か痛い目にあったり、損な役回りをさせられる事もあったのだが、仲間に恵まれ、いつも周りに助けられていた。
勇者として活動するようになった後もそれは変わらず、その辺りはヒューや
ただ、こんな状況に陥ってからは必要に迫られたのもあり、心を無にする事で辻褄合わせの嘘だけは上手くつけるようになっていた。
それでも、やはり他の嘘や言い訳は今でも苦手なので、この程度の事で困ってしまうのだが……。
「テッドは嘘や誤魔化しって絶対出来ないよね。でも……そう言うのって別に下手なままでいいんじゃないかな?」
私はそのままで良いんじゃないかなって思うよと、リシルが少し照れくさそうに言ってくれる。
「まぁ特別嘘をつくのが上手くなりたいわけじゃないけどさ。さっきみたいに機転を利かせて誤魔化すとかは出来た方が良いよな~」
そう言えば何故かセナにもよく嘘を見抜かれていたな……。
一瞬、5年と言う時を過ごしたトーマス村での事を思い出してしまい表情が曇る。
すると、突然リシルに背中を思いきり叩かれた。
「痛って!? 何だよ?」
「本当に色々下手よね~。でも……そうね……面倒な事に巻き込まれないで済む程度に、私が鍛えてあげようかな?」
「うっ。それはそれで面倒なんだが?」
そう言って視線を交わすと何だか可笑しくなって、2人そろって吹き出してしまった。
オレは久しぶりに味わう仲間との軽口に、街に着くまでの束の間の休息を楽しむのだった。
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