【第20話:交易都市】
「テッドの兄さん! そろそろテイトリアに着きますよ!」
御者台にいるアキドさんから声がかかるのだが……。
「誰が
「まぁまぁ。でも……見た目はともかく本当の事でしょ? 怒らないで返事してあげたら?」
オレが不老になって歳を取らなくなってしまった事はリシルに言ってある。
言ってあるのだが、あらためて指摘されると何か納得いかない。
しかし、悪気があってそんな呼び方しているわけではないのはわかっているし、無視するわけにもいかないので返事を返しておく。
「了解した! おかげでゆっくりできたよ。感謝する!」
そんなやり取りを交わしながら荷台から前を覗くと、遠くにテイトリアの街が見えてきたのだった。
~
オレ達は程なくしてテイトリアの街の門まで辿り着いた。
リシルはオレに会いに来る時はこの街は通ってこなかったようで、興味津々と言った様子で門越しに少しだけ見える街並みを眺めていた。
「お陰で無事に着けました。いや~ワイバーンに襲われた時は本当にもうダメかと。本当にありがとうございました。それじゃぁ、兄さんたちは一旦降りて貰っても良いですかね?」
通常、街に入るには冒険者タグなどの身分証の確認だけで済む。
だが、商いを営んでいる者、すなわち商人ギルドに所属している者たちの場合は、馬車や魔法鞄に積んでいる商品を報告する義務があるのだ。
その為、街の入出場の確認をスムーズに行えるように一般と商人用に列がわかれているのだ。
「ここまでありがとう。楽をさせて貰ったよ」
オレはここでお別れだと思ってそう口にするのだが、
「何を言っているんですかい? ちょっと確認で待ってもらう事になるかもしれませんけど、ご飯ぐらいご馳走させてくださいよ」
美味しい店を知っているから是非にと食事に誘ってくる。
しかし、オレ達はもう向かう先が決まっているので、
「いや。街に着いたらすぐに行きたいところがあるし、久しぶりに寄りたい飯屋もあるんでね。気持ちだけ受け取っておくよ」
そう返して、ここでお別れだと別れの言葉を告げる。
すると、その声が聞こえたのかマリーが馬をひいて駆け寄ってきた。
「もしかして、テッドさんたちここでお別れなんですか!?」
マリーはまだ暫く一緒にいると思っていたようで、寂しそうな表情を浮かべてそう言ってくれるが、あまりズルズルと一緒にいてもお互い予定が狂ってしまうだろう。
「そうね。前からテイトリアに着いたらまずは従魔を扱っている魔獣商に行くって決めていたから、ここでお別れしましょ。暫くはこの街で冒険者の仕事をしながら過ごす予定だから、何かあれば冒険者ギルドに
「わかりました……寂しくなりますがリシルさんもテッドさんも二人ともお気をつけて! それと、助けて頂いて本当にありがとうございました!」
深々と頭をさげて感謝の気持ちを伝えてくるマリー。
マリーとは余りゆっくり話す時間は取れなかったが、彼女にとってオレたちは久しぶりに知り合った冒険者だったので嬉しかったのだろう。
アキドさんに聞いた話では両親を流行り病で早くに亡くしており、冒険者になってからもずっと専属で護衛をして貰っているそうで、冒険者の仲間もほとんどいないそうだ。
「まぁ冒険者の事でも、それ以外の事でも何か困った事があれば遠慮せずに頼ってくるといい。こうして知り合えたのも何かの縁だしな」
マリーはその言葉に嬉しそうに礼を言うと、アキドさんの馬車と一緒に商人用の長い列の最後尾に向かったのだった。
「さて……オレたちもそろそろ行くか」
こうして小さな出会いと別れを終えたオレたちは、人のあまり並んでいない一般用の列からテイトリアの街に入るのだった。
~
「へ~♪ ここがイクリット王国一商業が盛んな街なのね~」
街に入ってから暫くキョロキョロと街並みを見ていたリシルは、オレの少し前を踊るように軽やかに歩きながら、クルリと振り返って話しかけてきた。
テイトリアの街はこのイクリット王国有数の交易都市で、様々な商品が国中から集められている。
商人の数がとても多いのが特徴の街だが、それに比例して護衛を専門とした冒険者も多く集まっており、更にはそれを受け入れる為の宿や食事処、屋台などが数多く立ち並んでおり、街は祭りのような活気に満ちていた。
家は石造りのものが多いが、王都のように家の作りが統一されているわけではないため、少し雑然とした街並みを形成している。
街の門から続くような大きな道は石が敷き詰められているのだが、こちらもやや凸凹が目立ち、それがかえって街にある種の雑然とした奇妙な統一感を醸し出しているのが面白い。
「見ての通りの賑やかな街さ。アキドさんみたいにこの街で仕入れをして他の街で売りさばく者や、逆にここに商品を売りさばきにくる商人の数は、この国で一番多いんじゃないかな?」
ただ、このテイトリアの街は王都のように生産したものを売りに来るものは意外と少ない。
だから各種ギルドが生産する武器や防具、魔道具などが欲しい場合は、王都を探したほうが良いだろう。
その辺りを掻い摘んでリシルにも教えてやる。
「へ~。そうなんだ。こっちでも生産品売ってくれてもいいのにね」
そんな会話をしているうちに、目的の魔獣商が見えてきた。
以前オレがこの街に滞在していた時に世話になった店なのだが、あれから2度ほど聖魔剣レダタンアを抜いてしまっている。店主もオレの事はもう覚えていないだろう。
だが、店だけでも潰れずに残っていて良かった。
「あれが話していた魔獣商だ。主人が元
だが、その拘りが強すぎて商売が凄く下手なのだ。
だからさっきも潰れていなくて良かったと胸を撫でおろしたのだが。
しかし安心したのも束の間、扉の前まで近づくと、中から言い争う声と怒鳴り声が聞こえてきた。
「ふざけるな!! さっさとその騎獣を寄こせって言ってんだよ!!」
「ふざけてなんかいるか! お前みたいな奴にこの子はぜってー売らん!!」
その声に少しの懐かしさを感じながらリシルを見ると、
「本当に話してくれていた通りの喧嘩っ早い店主なのね……」
少し可笑しそうに、そして少し嫌そうに言うのだった。
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